第16話

文字数 751文字

母の体調が回復してきた冬の終わり頃、芽衣里はお墓の見学へ出かけた。

祖母の死を経て改めて自分の死について見つめ直し、希望死外来を予約していた件を思い出したからだ。

祖母は祖父をはじめ芽衣里の母方親族が眠る墓地へと埋葬された。母はずっと昔からそこに墓参りをしており、誰かの法事の度に檀家になっている寺に依頼をしているため、住職とも懇意だ。至極当然のこととして、祖母はその墓に入った。

芽衣里はふと両親はどこに入るのか尋ねた。父方の祖父母が入っている所があるからそこかな、と母は言う。それとなく芽衣里は自分が死んだらそこに入れてもらえるのかも訊いてみた。すると、このままずっと独り者で、誰とも付き合いなく死んでいったら、あんたは行政によって無縁仏に預けられるんじゃない、と素っ気なく返された。

父方の祖父母はともに芽衣里の小さな頃に亡くなっており、今や芽衣里は顔も覚えていない。墓は父の親族が眠る群馬の山中にある。かなり遠方のため、芽衣里は墓参りすらほとんど行ったことがない。加えて父方の親族との付き合いもほぼない。血縁がある以外の付き合いがない人たちと同じ墓に入るのもどうか、と芽衣里は思った。

調べたところ、最近は墓も都市型になっており、都心にビル状の建物の中に位牌と骨壺を安置する形式が一般化しつつあるようだ。納骨や墓参りの手間を省く上でも好評だと聞く。芽衣里の場合は後々に手を合わせに来る者はいないのかもしれないが。

新宿から私鉄に乗り換え20分ほどの距離にある寺院が経営するという霊廟の見学予約を芽衣里は取った。

複数の大学のキャンパスを有するその街は、賑やかな駅前商店街とお洒落なカフェや洋菓子店が混在する不思議な町並みが特徴的だった。寺院は商店街を抜けた先の交差点を渡り、某有名私立高校の隣に位置している。
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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