第23話
文字数 598文字
春になった。
桜の花びらが風に舞う頃、芽衣里は美容院に行った。芽衣里は年に一度しか美容院に行かない。一年間、伸ばし続け、ばっさり切る。まだ白髪もなく、髪型のこだわりもないため、節約を兼ねてそうしている。
別に気に入っているわけではないが、最寄り駅の前にある美容院にいつも行く。シフト勤務で休みがまちまちな芽衣里は事前予約が困難であるが、この店はいつ行ってもすぐに入れるからである。
「いつもと同じ感じでよろしいですか?」
担当する美容師は笑顔で芽衣里に確認する。そういえば去年も一昨年も彼女が担当していた。一年に一度しか来ない客であるのに、彼女はきちんと芽衣里のデータを記憶しているのか。
「今年の夏は友人の結婚式がたくさん入ってるんですよ。おめでたいんですけど、ご祝儀が大変なんですよね」
芽衣里の手入れがなされていない傷んだ髪を切りながら、彼女は言った。
今年の夏、か。自分は存命しているのか。
「大変ですね。結婚式って出たことないんで、わかんないですが」
「えっ、そうなんですか。すいません、余計な話してしまいまして...」
美容師は鏡の中から芽衣里と目を逸らした。おおよそ、芽衣里が友人のいない寂しい人なんだろう、とでも思っているのだろう。そう思いたいなら思えばよい。芽衣里は彼女に合わせて黙った。
芽衣里はその場で適当に人と付き合う。だから必要以上に人と親密にはならない。それで特に寂しいと感じたことはない。
桜の花びらが風に舞う頃、芽衣里は美容院に行った。芽衣里は年に一度しか美容院に行かない。一年間、伸ばし続け、ばっさり切る。まだ白髪もなく、髪型のこだわりもないため、節約を兼ねてそうしている。
別に気に入っているわけではないが、最寄り駅の前にある美容院にいつも行く。シフト勤務で休みがまちまちな芽衣里は事前予約が困難であるが、この店はいつ行ってもすぐに入れるからである。
「いつもと同じ感じでよろしいですか?」
担当する美容師は笑顔で芽衣里に確認する。そういえば去年も一昨年も彼女が担当していた。一年に一度しか来ない客であるのに、彼女はきちんと芽衣里のデータを記憶しているのか。
「今年の夏は友人の結婚式がたくさん入ってるんですよ。おめでたいんですけど、ご祝儀が大変なんですよね」
芽衣里の手入れがなされていない傷んだ髪を切りながら、彼女は言った。
今年の夏、か。自分は存命しているのか。
「大変ですね。結婚式って出たことないんで、わかんないですが」
「えっ、そうなんですか。すいません、余計な話してしまいまして...」
美容師は鏡の中から芽衣里と目を逸らした。おおよそ、芽衣里が友人のいない寂しい人なんだろう、とでも思っているのだろう。そう思いたいなら思えばよい。芽衣里は彼女に合わせて黙った。
芽衣里はその場で適当に人と付き合う。だから必要以上に人と親密にはならない。それで特に寂しいと感じたことはない。