第19話

文字数 655文字

見学を終えると、再び待合室に戻った。寺院名が入った封筒が手渡された。中にはパンフレットと申し込み書、それに利用規約が入っていた。

パンフレットには各区画の料金表、仏壇のオプション、位牌や骨壺のデザインサンプル、その他の蝋燭や花瓶など飾りといった備品が写真付きで掲載されている。また巻末には提携の葬儀屋の紹介もあり、葬儀プラン、さらには棺桶や祭壇用の仏花まで選べるようになっていた。

本当に自分で自分の後始末ってできるものなんだ。

半年前、病院で吉田が言っていたことが今更ながら芽衣里の心に沁みた。

住職に挨拶をし、寺院から出た直後、一緒に見学をしていた女性が芽衣里に話しかけてきた。

「私、いろいろ回ったけど、ここはすっごくいいお墓だったわね。ここに決めようかしら」

他との比較をしていない芽衣里にはこの寺がそんなに優良物件であったのかどうかはわからない。芽衣里は曖昧に返答した。

「もしあなたもここになさるのなら、私たち墓友ね。永遠のご近所さんよ」

墓友か。ママ友とどちらが厄介だろうか。

「ここでお会いしたのも何かのご縁ね。よかったらお茶でもしませんこと?奢るわよ」

芽衣里は断ったが、少しでいいからと、女性は引き下がらなかった。仕方なく、駅前商店街のドーナッツ店に入った。好きなものを頼んでいいわよ、と女性は言ってきたが、芽衣里はコーヒーだけを注文した。

飲み物を載せた盆を運び、席を取って座るなり、女性は名乗ってきた。

「申し遅れましたが、私、中尾ルミ子と申します。どうぞよろしくね」

「大野です」

ぎこちなく芽衣里は頭を下げた。
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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