第38話

文字数 425文字

一人になり、いざ薬を飲もうと思っても、意外とあれこれ考えてしまうものだった。あれほど決意は固まった、と思っていたのに。

芽衣里は机に置かれた薬と紙コップを見つめた。

あれを口に含んでしまえば、すべてが終わるんだ。

そう思い、袋の中から錠剤を取り出す。

ふと部屋の中を見回した。四方を囲む壁と天井は白い。ベッドの柵と寝具類も白い。ベッドの頭側にある窓にかかるカーテンも白い。テーブルは木製だ。窓の外は明るい。

この部屋で何人が死んだのだろうか。

さあ、飲まなくては。

芽衣里は錠剤を銀紙から破って出し、水の入った紙コップを掴んだ。手の平に白い錠剤が乗っかる。まだ血色は良く、弾力とツヤもある手だ。

一度も占いを訪れたことはない。それでも生命線ぐらいはどれなのか知っている。長ければ寿命が長い、と言われていることも。

芽衣里の生命線はとても長い。手首に届きそうなぐらい、深く刻まれている。

それは単なる迷信に過ぎないのだ。

掌を唇に近づけ、芽衣里は錠剤を吸うように口に入れた。

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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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