第6話

文字数 866文字

看護師は院長と入れ替わるようにすぐにやって来た。先程、芽衣里をこの部屋に入るよう誘導したあの女性看護師だった。

「お待たせしました。看護師の吉田です」

胸につけたネームプレートを指差しながら、吉田は自己紹介した。さすがに院長席には座れないのだろう。吉田は芽衣里の左側に立ったまま話を始めた。

「院長から説明があった一年間で行っていただくことについて、詳しくお話ししていきますね」

少し太めで小柄な吉田は、すいません長いのでちょっとこんな格好になります、と言い中腰になった。

「ではまず資料をがあるのでそれを見てください」

またしてもA4用紙を渡された。今度は裏表に渡っている。さらに各文の隅にはチェックボックスがある。

「この紙に書いてあることを1年後までに全部終えていただきます。たくさん項目あります。まず全部目を通してもらって、読み終わったら声かけてください。わからなければ質問してください」

芽衣里は頷いて、用紙を読み始めた。

『希望死外来を利用される条件について
以下の点につきまして、ご確認とご準備をしていただきますようお願い致します。次回の外来時には、すべての条項につきまして提示していただき、確認が取れ次第の受診となります。
ご確認とご準備いただく項目

・預金通帳の整理。可能であれば預金額を引き出しておく。もしくは暗証番号の開示。
・加入している生命保険の確認。
・職場の連絡先。
・加入しているクラブ等の解約手続き。
・サブスクリプションサービスや定期購入の解約手続き。
・公共料金引き落とし口座の提示。
・デジタル関係のパスワード整理。
・有料サイト運営の解約手続き。
・死後に連絡して欲しい方の連絡先提示。
・荷物整理、ゴミ出し。
・親族、地域におけるご自身の役割の引き継ぎ。
・ペットの行き場確保。※保健所引取りは厳禁です。
・株の売却。
・不動産の売却。
・車両の売却。
・診療日以降にサービス予約を入れない。
・借用物の返却。
・借金の返済。
・遺書の執筆。
・公的証明書の提示。
・墓地の手配。
・葬儀の手配。
・葬儀と埋葬に関する希望。
お手配をよろしくお願い致します』

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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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