第34話

文字数 630文字

翌朝、芽衣里はシフトのない朝に目覚める時間に目を覚ました。窓から入る朝日は明るい。晴天であることがうかがえた。

洗面をし、軽く朝食をとる。居間では父が新聞を読んでおり、母はワイドショーを観ている。

約束の時間は3時だ。それまでは特に何もせず、のんびりしようと思っている。

必要な書類はすべて記入し、やるべきことはすべて終えた。あとは時間になったら、家を出るだけだった。

昨晩、芽衣里は母に今までありがとう、と伝えた。突然何を、と母は怪訝そうだった。今晩、その答え合わせができるはずだ。

こんな娘でごめんね。一足先に、私は逝きます。

やっと恵まれた子宝だった、と聞いているから、母はこの選択をどう思うのだろうか。

少ない給与ながらも、必死に家族を守るために働いてきた父は、何を感じるのか。

死を伝えて欲しい人のリストになるみの名は書かなかった。母を通じて耳に入るだろうと信じているからだ。

それでも芽衣里の意志は変わらない。この人生に意味はなく、新たに進むべき道と希望を見つけたからだ。

墓は見学に行った寺で契約し、葬儀についても直葬で手配済みである。もう、後戻りはできないのだ。


午後3時。

芽衣里は関東医科大学病院の廊下に来た。一年前、若生と面談したあの部屋の前で、待った。

受付は今日も混沌としていた。呼吸器のカートを引っ張りながら歩く老婆や、抗がん剤の副作用で毛糸帽を被った痩せた患者、ほぼ意識がなくカートで運ばれる中学生ぐらいの子ども、など目を覆いたくなる現状がそこにはあった。
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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