第17話

文字数 765文字

「本日、見学予約をしてます、大野です」

ご用の方はインターホンを鳴らしてください、との看板が寺院の入口に貼ってあったため、芽衣里はベルを鳴らした。用件を伝えると、対応した女性から「開錠しますので、お入りください」、との指示があり、まもなくして門の先にあるガラス戸が開いた。

中はまるで旅館のように美しかった。大理石でできた玄関はピカピカに磨き上げられているし、床には塵ひとつ落ちていない。先日、祖母の葬儀の際に行った寺も同様であったが、近頃の寺社はひと昔前までのような畏れがない。

スリッパに履き替えると、先程インターホンに出た女性だろうか、太めの中年女性がやって来た。芽衣里はソファが置かれた待合室に通され、お茶菓子を出され、他にも見学者が来るから待つように、と言われた。お茶菓子は有名和菓子店のどら焼きだ。早速、開封し、芽衣里は口に運んだ。

緑茶をすすっていると、待合室の扉が開いた。60歳くらいだろうか。パールのネックレスにツィードのワンピースを着た女性が入って来た。

「こんにちは」

女性はにこやかに挨拶をする。仕方なく芽衣里も挨拶を返した。

手に持っていたコートをハンガーラックにかけてから女性はソファに腰掛けた。芽衣里も慌てて着てきたダウンジャケットを同じ場所にかけに行った。かけざまに女性のコートに少し触れてしまったのだが、芽衣里がこれまでに袖を通したことのないような素材だった。柔らかく繊細な肌触りだ。おそらく高価なものに違いない。マイクロファイバーのダウンを羽織ってきた芽衣里は、自分のジャケットが女性のコートにつかないよう気をつけた。

ソファに戻ってからも芽衣里は女性に目を向けた。多分、自分の母と歳は近いと思われるが、女性は白髪がなく、綺麗に化粧を施しているためシワも目立っていない。きっといい暮らしをしている人なんだろう。
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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