第18話

文字数 835文字

住職が迎えに来て、芽衣里は品のよい女性とともに霊廟の見学へ向かった。

霊廟は寺院の隣に新しく建てられていた。まるでビルのような風体をしている。中に入ると、マンションの入口で見かけるようなボタン式の呼び出し機があり、それを使って自分のスペースを呼び出すのだという。

試しに住職がボタンを操作し、使用されているスペースを見せてくれた。学校で割り当てられるようなロッカーと同じぐらいの幅に、位牌と遺影及び骨壺が所狭しと飾られていた。入る範囲で思い出の品を入れても構わないが、屋内のため花は生花ではなくプリザーブドフラワーや造花にすることと食品は持ち込み不可ということだった。また墓参りに来る際は、混雑を避けるために寺院に予約してから来るようお願いをしておいてくれ、とも住職は言う。

ここにいれば雨風に晒されませんし、人里離れた場所と違って賑やかな街中ですから寂しくもないですよ、檀家以外の方からの永代供養も受けてますからご家族に迷惑もかからないです、と住職は話していたが、芽衣里はその意味を解していなかった。対して一緒に見学している女性は感嘆の声を上げながら住職の説明に聞き入っていた。

霊廟を見た後に寺院の中庭に案内された。待合室からも見えていたが、寺院によくある白砂利庭園である。
庭の奥、つまり道路側に、かなり大きなクスノキの木がある。

「あれはね、樹齢450年のクスノキです。東京都の天然記念物指定も受けてます」

450年とは、江戸時代が400年前だからそれより前からある、ということか。歴史に詳しくない芽衣里でもそれぐらいわかる。

ふと空を見上げると、飛行機雲がモクモクと白く伸びている。信号が変わったのか一斉に車のエンジン音が上がっている。快速だろうか、轟音を立てて走り去る電車の音が遠くに響いている。

ここがこんな喧騒に包まれてしまうもっともっと前からこの木はこの庭にいて、入れ代わり立ち代わり誰かがここを訪れるのをじっと見ているのだ。

そう考えると、人間の寿命なんて短くはかない。
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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