第20話

文字数 834文字

年代が異なれば、中尾とは暮らし向きの差もかなりありそうだ。話が合うとは思えない。適当に相槌を打って早々においとましよう、と芽衣里は考えた。

「私はね、この近く在住なんだけど、このお寺のことは全然知らなくて、通ってるヨガ教室のお友達に薦められて、見学に来てみたの」

「そうだったんですか」

いかにも優雅なマダムといった感じである。まずしも、この近辺は比較的高級住宅街である。芽衣里は仕事の時に客から愚痴や自慢などの雑談を聞かされる時と同じ態度をとった。

「でもいいわよね、一人区画の墓地なんて。従来はお墓なんて見も知らぬ一族とご一緒しなきゃなんなかったものじゃない。しかも女性は育ててくれた両親のもとじゃなく、嫁いだ先の家の墓に入れられてたわけでしょ。意地悪舅姑であってもよ。冗談じゃないって話よね」

未婚で親族と付き合いもしてない芽衣里にはピンと来ないが、この前に墓について母親に質問した際も同様の反応を示していた。ずっと一緒に暮らしてた自分の両親じゃなく赤の他人である付き合いの薄かった義両親と一緒にあの世を過ごすのは寂しい、と。

「私はずっとそれが受け入れられなかったの。だって主人の両親はすっごくイヤな人たちだったから。大っ嫌いだったのよ。ケチだし、あんたは嫁だからって用事ばっかり言い付けて土産のひとつくれやしない。それも私だけにさ。嫁は他家から来たから当然だってさ。こっちにはなーんの恩も売らずに、自分たちの面倒見るのは義務だ、なんて言い出して、私に大迷惑かけながら死んでったのよ。そう、私があなたぐらいの時は自分の時間なんてまったくなかった。ずーっと義両親の介護よ。やんなっちゃったわよ」

品のよい顔立ちからは不似合いな悪口が中尾から続いた。仕事柄、この類の痴話を中尾と同じ年代から聞かされることの多い芽衣里は、まったく実感が湧かない話だが、共感の姿勢を見せた。

「しかも主人も主人でさ、自分の親の味方。私には我慢してくれよ、その一点張り。ふざけんなって何度思ったことか」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み