第10話

文字数 887文字

関東医科大学病院の希望死外来を受診してから三ヶ月が経過した。

あの日、帰宅すると芽衣里は母親に自分名義の生命保険の加入があるかどうかを尋ねた。返ってきた答えは、「なし」だった。だから病気やケガをしても保険証しか使えないから、万が一に備えたいなら自分で加入しろ、と苦言を呈された。株式や不動産の所有についても同様で、そんなものあったらもっといい暮らししてるよ、と悪態をつかれてしまった。

季節は秋に入り、時間は着実に進んでいるのはわかっているが、芽衣里はまだ自身の進退を決めていない。ただあのリストにあるかなりの項目が自分には無関係だとは判明している。

どうするべきか。

焦りはある反面、まだ半年以上時間があると余裕でいる自分が混在している。そうしてなんとなく日々をこなすいつもの芽衣里を継続していた。

あの日、関東医科大学病院を訪れるきっかけとなった友人、坂月なるみから連絡があったのはそんな時期だった。娘の望菜実(もなみと読む)のお食い初めをするから、芽衣里に来て欲しいというのだ。なんでも夫の親族は通過儀礼や年中行事には無関心であり、自分の両親は兄夫婦の三人の孫たちの世話で忙しく、芽衣里に白羽の矢が立ってしまったようだ。

なるみとは中学時代までは仲良くしていた。理由は家が近かったからと母親同士の仲が良かったから。小学生の頃はしょっちゅう互いの家を行き来していた。

だが、高校生になると一変した。芽衣里よりずっと成績が良かったなるみは、地区で一番難しい学校に推薦で入学し、下位校に進学した芽衣里とは疎遠になったのだ。たまに顔を合わせれば挨拶をする程度の関係になり下がった。もともと、明るい性格でクラスの人気者だったなるみと、目立たない芽衣里では明らかに不釣り合いであり、地縁と親縁があってこその腐れ縁だったのだから、当然と言えば当然だった。

以降のなるみに関する情報は、母を経由して聞いていた。有名私大に指定校推薦で入学し、有名企業に入社し、27歳で結婚が決まって実家を出たのだ。もちろん芽衣里は結婚式に呼ばれてはいない。

何年もなしのつぶてであったなるみと再会したのは半年前のことだ。
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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