第27話

文字数 816文字

心なしかなるみは肩を落としているように感じる。

「どうしたの?またなんかムカつく人がいるの?」

「ムカつくっていうか、考えても仕方ないんだけど、ウチの子とよその子で比べちゃうんだよね。いけないって頭でわかってても...」

わああ、と言いながら望菜実は手づかみで離乳食を口に入れている。木製の子ども椅子に座り、キャラクターがついたスタイを首にかけ、時折笑顔を見せる。

「元気じゃん、望菜実。何がそんなに不安なの?」

「うん、確かに今のところ病気とかはないよ。でもなんかスタートラインにもう乗り遅れてるんだよね...」

聞けばマンション内の同学年の子たちは幼児教室に通い出しているそうだ。幼稚園ないし小学校受験に備えてのことらしい。だが、なるみの夫は受験には反対派であり、波に乗り遅れてしまった、というわけだった。

「この辺りで中学までに私立入れてない人って少数派なんだよね。そんな中で望菜実だけが公立に行ってたら、目立つだろうし、孤立するかもしれない。だいたいみんなが私立選ぶってことは公立が荒れてるからかもしれない。そう思うといても立ってもいられないんだよね...」

芽衣里となるみが通っていた区立中も決して風紀が良いとは言い難かった学校だった。それでも芽衣里もなるみも、不良グループに入ることなどなく、至極普通の中学生活を送った。

「中学なんてまだ10年以上先の話でしょ。今から心配しなくてもいいんじゃない」

「それがそうでもないんだよね。私立入れるとすれば学費が膨大にかかるから、今から貯蓄しないと間に合わない。私も早めに社会復帰して、お金作んないと、になるけど、それだと二人目をどうしようってなるし」

二人目、と聞いて芽衣里は気が遠くなった。なるみは一人目を妊娠するまで、さらに出産するまで、かなり壮絶な道のりを辿ったと聞いているため、次はどんな試練が待っているのかと考えると恐ろしい。それも覚悟の上なのだろうが、果てのない何かを感じざるを得ない。

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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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