第11話

文字数 870文字

母親におつかいを頼まれた近所のスーパーでのことだった。なるみは身重になっていた。

10年の歳月を経ても、あの頃毎日のように顔を付き合わせていた仲だ。すぐに互いを認識した。「変わらないね」と、なるみは芽衣里に笑いかけた。

だが、なるみの変貌ぶりは芽衣里を驚かせた。変わってなかったのはストレートボブの髪型ぐらいだった。子どもの頃に放っていた、キラキラしたような明るいオーラを纏っていなかったのだ。妊娠中であったから、顔色が悪いのは致し方ないが、それにしても瞳がギロリとし、頬がこけ、何より暗く寂しそうな雰囲気に様変わりしてしまったなるみに、芽衣里はひどくショックを受けた。

その場限りかと思いきや、なるみは翌日に芽衣里の家に押しかけてきた。芽衣里が仕事に行っている間に来て、母が家に上げたのだ。

なるみは里帰り出産のため、実家に戻っているのだという。

とはいえ、何年も疎遠にしていた幼なじみをたくさんの友人を抱えていたなるみが頼ってくることに芽衣里は違和感を抱いた。母に聞こえぬよう、そっと芽衣里はその旨を問うた。

なるみの返答は衝撃的だった。

友人は全員縁を切った、というのだ。

大学を卒業し、就職したなるみは、大学時代にサークル活動を通して知り合い交際していた二つ年上の先輩と27歳で結婚した。家族と友人に囲まれ盛大な式を挙げ、結婚後も仕事を続けキャリアを積み上げていたそうだ。

だが、その頃から順風万端だったなるみの人生に暗雲が立ち込め出した。結婚して3年を経ても、なるみは子宝を授からなかったのだ。

対照的になるみの友人や同年代の同僚が次々と妊娠と出産をしていく。なるみは焦った。

不妊治療クリニックを訪れ、様々な診療を受けたという。だが、不妊の原因を解明することはできなかった。

周囲の吉報はさらに増し、第二子懐妊や産後の職場復帰と、ステップアップしていった。もはやなるみにはその連絡はストレスでしかなかった。

なるみはソーシャルネットワークシステムのアカウントをすべて削除し、携帯の連絡先からすべての友人を消去し、仕事も辞めた。

その直後、なるみは妊娠した。
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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