第12話

文字数 690文字

だから今は私に友達は誰もいないの。よかったら相手してやってね。と、なるみは流すように芽衣里に言った。

人に対しても執着のない芽衣里は、その場その場で適当に付き合う。学生時代も社会人になってからも同様だ。卒業なり退職なりしたら、そこで関係は終了する。連絡先を交換しても、芽衣里から連絡を入れることはしない。向こうから来ることもほぼない。だから芽衣里にも親しい友人はいないと言えよう。

なるみが芽衣里に会いたいと言うのであれば、別に断る理由はない。いつでも遊びに来ていいよ、と伝えた。

それからというもの、芽衣里の仕事が休みの度に、なるみは大野家に上がり込んだ。休日はひたすら寝ると決めている芽衣里は少し煩わしいと感じることもあったが、久しぶりのなるみの来訪に母が喜び必ず招き入れてしまうため、相手しないわけにはいかなかった。

だが、それも長くは続かなかった。出産直前になるみは容体が急変し、近隣のクリニックから大学病院へと転院したのだ。

なんとか帝王切開によりなるみは無事に出産し、その見舞いのため芽衣里はあの日、関東医科大学病院へ行ったのだ。


なるみは現在、川崎市にある新興住宅街にマンションを購入し、家族で暮らしている。実家から出たことのない芽衣里は初めて乗る路線に乗り、初めて降りる駅で降りた。

駅前は高層マンションと小洒落たショッピングセンターが立ち並ぶ。昭和レトロな商店街が今も残る芽衣里の地元とは似ても似つかなかった。

駅の改札でなるみと落ち合った。なるみは胸に抱っこ紐をつけている。

ショッピングセンターで聞いたこともないような惣菜を何点か購入し、なるみが住むマンションの部屋に入った。
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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