第32話

文字数 748文字

床を埋めていたのはほぼ衣服であった。芽衣里は流行の服など買わない。好きなブランドもない。デザインにこだわりもないため、必要だと感じた物をその都度適当に購入している。買う場所は地元の洋品店だったり、スーパーの衣料品コーナーだったりと決まっていない。

本来、貴重面に片付けをしていれば自分の手持ちに何が何枚あるか把握できるのであろうが、芽衣里はそうではないため、季節が来て慌てて探して見つからなければ購入してしまっていた。その結果がこの惨状なのだろう。床に積もった埃だらけの衣服をゴミ袋に入れていくと、同じ種類の服が何枚も出てきて、あの時見つからなかったからまた買ったのか、と何度も反省させられた。きちんと管理していればいったいいくらの節約になったのだろうか。

ゴミ袋の合計は10ほどになった。物がのいた後の床は塵芥が漂っており、掃除機をかけた。そして家とゴミ捨て場を何往復かした。

突然の大掃除に母からは訝しがられた。気が向いたから、とだけ答えておいた。

衣服の他にも、高校時代までの教科書やノート、プリント類もあり、それらも全部処分した。シミがうっすらと浮かび汚臭を発しもしているテキストを見て、なんでもっと早く捨てなかったのか、と自責した。一年前、吉田看護師から遺品を整理しておく必要性を説かれたことが身に染みて理解できた。

最低限の衣服と生活用品だけになった時、芽衣里は自室がこんなに広かったのか、と初めて気づいた。小学生の頃からこの部屋で生活している。中学生ぐらいから母の清掃を拒み、山積が始まったように記憶している。その惰性は芽衣里の人生そのものだったのかもしれない。

不思議なもので断捨離をした今、気持ちが新たに生まれ変わった気がする。

芽衣里は吉田看護師から一年前に渡された資料に改めて目を通した。
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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