憧れの地底旅行

文字数 952文字

外に出ると既に辺りは暗くなり始めていました。
地底人はすずの肩から降りると、また魔法式を唱えます。
さらっとやってのけますが、体のサイズを変えてしまう魔法って、人間には未知の領域なんですよね。
小さく見せたりするのは簡単なんですが、実際の質量を変えてしまうなんて、いったいどんな原理なんだろう?
「アクサー!」
今度も音は無くあっと言う間に元の大きさへ戻りました。
「あー楽しかっただ。回りたいとこは回ったから、おらぼちぼち帰ぇるとするだ」
彼は満足げな表情を浮かべてニンマリ笑っています。
“旅は帰るまで”なんて言葉もありますから、すずとランカは彼を始まりの場所まで送る事にしました。
「ねぇねぇ、地面の下にある地底世界ってどんな所?」
「きっと綺麗な地底湖が広がってるの」
二人は地底世界に興味津々。
「地底は暖けぇし飯も旨い楽園みたいなトコだべ。温泉も入り放題だしな」
彼は饒舌になって話してくれます。
地面の下に広がる階層都市や自然豊かな大空洞。
地上に負けない高度な文明が発達し、極みと言える芸術が脈々と受け継がれる暮らし。
通貨という価値の考え方が存在せず、感謝や労り・喧嘩等の精神の繋がりや衝突で成り立つ社会。
所々、文化の違いからか理解出来ない事も有りましたが、調和のとれた平和な世界だと分かりました。
「一度でいいからそんな所を2人で旅してみたいよね」
「未知の芸術と世界を尋ねる旅なんてロマンチックなの。何故、地底旅行ツアーとかやってるお店ないのかしら?」
そんな素敵な所なら、地上ともっと交流があっても良い気がします。
何故、今の今まで知らなかったんだろう?
二人は不思議に思いました。
「地上は寒いし眩し過ぎるからでねぇか?」
「え?」
寒い?
眩しい?
それは地底に住む彼の素直な感想の様でした。
逆に地上での生活に適応したすず達が地底世界に行ったらどうなるでしょう。
「ねぇねぇ、そもそもお日様がささないよ。日向ぼっこも出来ないね」
よく考えてみると地面の下はジメジメして変な虫とかいっぱいいそうです。
地底人の美味しいモノっていったいなんでしょう?
キノコはまだですけど他は虫とかかもしれません。
「あんまりロマンチックじゃないの」
すず達は地底世界への憧れを封印しました。
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登場人物紹介

鈴音(すずね)


修道院の貧困を救うためにお金を稼げる大人を目指している孤児院出身の女の子。

努力と根性で高名な魔法学校に次席入学を果たした。

過去に壮絶な死別を経験しており、食べ物を粗末にする事を極端に嫌う。

明るく積極的で協調性にも優れ友達が多い。

しかし実は周囲の生徒と価値観が合わず、本当の友達と呼べるのはランカ一人しかいない。


モデル:CHOCO鈴音

蘭華(ランカ)


すずねの親友で魔法学校を主席で入学した秀才。

天才肌で大抵の勉強は授業のみで覚えられる。

しかし将来に対して何の希望も目標も持てず悩んでいる。

明るく行動的なすずねに刺激を受けてうわさ話を追いかけている。

意外と抜けている一面も。

好物はラーメン。


モデル:CHOCO蘭華

無糖あず(語り手)


二次創作“君影草と魔法の365日”の作者。

トーク作品で一話の“消えた石像の謎”や没ネタ、没エピソードも公開中。

君影草を好きになってくれた人はぜひ!

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