誰も住まない家

文字数 1,029文字

「最初からガイドブックを見せてもらえば良かったの」
地底人が赤ペンでチェックしているページの写真は全て、すずとランカがよく知っている場所でした。
「まさか全部学校敷地内とは思わなかったよ」
冷静になって考えたら、彼だって外国まで案内しろなんて言わないでしょう。
ただ“地上の観光スポット”なんてザックリとした表現で聞かれたものですから、二人はつい世界単位で考えちゃったんですよね。
箱庭に観光へ来た人が箱庭の人に道を尋ねるのは至って普通です。
「“誰も住まない家”って、多分ここの事なの」
案内したのは古い洋館。
すずがお世話になっている学生寮です。
外観はお化け屋敷そのものなので“誰も住まない”なんて言われても仕方無いかもしれません。
一応は管理人のテツさんと寮生のすずが生活してるんですけどね。
とりあえず紹介されている写真の場所で間違いない様です。
「おー間違いねぇべ。おめぇ達のお陰で地上の名所を完全制覇だぁ!」
『やったね!』
すずとランカはハイタッチ!
「喜んでもらえて私達も嬉しいの!」
思い起こせばかなり適当な案内をした2人ですが、バッチリ期待に応える事が出来ました。
「ねぇねぇ、ガイドブックにはなんて紹介されているのかなぁ?」
「あ、私もそれ気になるの!」
色々と素敵な案内がされているガイドブック。
学生寮について何と書いてあるのでしょう?
「なんだ? 結局おめぇ達よりおらの方が地上に詳しいんでねぇか」
そう言いながらも嬉しそうにページをめくります。
「まずは中さはいらねえとな」
え?
いや無理無理無理無理!!
自分どれだけデカイと思ってるんですか?
そんな表情を浮かべる二人を尻目に彼は魔法式を唱えます。
恐らく地底文明のソレは、人間には発音する事が不可能な詠唱。
「アッカル!」
すると彼の体が音も無くみるみる小さくなり、あっと言う間に手のひらサイズに。
ピョンと物凄い跳躍力を見せるとすずの肩に乗りました。
魔法のお陰かちっとも重くありません。
「これで大丈夫だべ」
小さくなったせいでメッチャ声が高くなってます(笑)
「出来るなら最初から小さくなってて欲しかったの」
「馬鹿言うでねぇ。こったら小さくなっちまったら名所の景色が変わっちまうでねぇか」
まぁ確かにそうなんですが、今は良いのでしょうか?
そんな疑問を尋ねる間も無く、三人はあの開かずの扉の前に来ていました。
「まさか…なの」
嫌な予感。
すずは悪寒が走ります。
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登場人物紹介

鈴音(すずね)


修道院の貧困を救うためにお金を稼げる大人を目指している孤児院出身の女の子。

努力と根性で高名な魔法学校に次席入学を果たした。

過去に壮絶な死別を経験しており、食べ物を粗末にする事を極端に嫌う。

明るく積極的で協調性にも優れ友達が多い。

しかし実は周囲の生徒と価値観が合わず、本当の友達と呼べるのはランカ一人しかいない。


モデル:CHOCO鈴音

蘭華(ランカ)


すずねの親友で魔法学校を主席で入学した秀才。

天才肌で大抵の勉強は授業のみで覚えられる。

しかし将来に対して何の希望も目標も持てず悩んでいる。

明るく行動的なすずねに刺激を受けてうわさ話を追いかけている。

意外と抜けている一面も。

好物はラーメン。


モデル:CHOCO蘭華

無糖あず(語り手)


二次創作“君影草と魔法の365日”の作者。

トーク作品で一話の“消えた石像の謎”や没ネタ、没エピソードも公開中。

君影草を好きになってくれた人はぜひ!

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