深夜の図書室

文字数 1,058文字

言霊石を精製するには高い技術と強い魔力が不可欠でした。
どちらも持ち合わせていない二人には代わりとなる知識が必要です。
そもそも精製の方法さえ見当もつかないのですから。
「図書室で調べてみたらどうかしら?」
的を得た意見の様に聞こえますが、すずの提案は大胆不敵なものでした。
一般の生徒には公開されていない“魔導書”を盗み見ようと言うのです。
明らかな校則違反なんですがランカは反対しません。
「時間が無いの。直ぐに準備よ」
計画は実行に移されました。
閉館前に星読みの塔へ出向き、最短ルートや障害の確認。
既存の資料で調べ、精製に必要と思われる全ての物をかき集めます。
明るいうちに出来る限りの用意を整えました。
今は紫の黄昏で普段の深夜よりうっすら明るい25時。
塔の回りにはゴーレム制作の足場が組まれていて、上級生達が作業に追われています。
今年のテーマは造形美。
どっかの美術館の中庭に置かれているモニュメントの様な曲線が美しい自信作。
上級生達は仕上げに取り掛かっていて、集中し周りが見えていません。
すず、ランカ、リリーの3人は不用心に開け放たれた門を通って難なく侵入を果たしました。
塔の中心部は吹き抜けの螺旋階段になっていて、所々に点在するランプの灯りが静かに照らしています。
二人はホウキに跨がると、魔法式を唱えて宙に舞いました。
階段を真面目に上ってたら、うるさいし時間がかかり過ぎ。
吹き抜けをホウキで飛ぶのは目立ちますが、ここは勇気をもって一気に進みます。
塔には蔵書の種類ごとに幾多の図書室があり、存在する部屋の七割を占めていました。
目指すのは最上階近く。
司書室の隣にある特別な部屋です。
すっとチカラを緩めて音も無く降り立ちました。
扉は施錠されていますが、鍵はリリーが外の上級生から拝借済み。
ランカが解錠を試みます。
「あ…」
と、思いのほか大きな音が響きました。
「ねぇねぇ、気付かれなかったかな?」
「大丈夫よ。早く本を…」
ランカは魔法で小さな明かりを灯すと、リリーと本棚をあさり始めます。
すずは周囲に問題が無い事を確認すると、部屋の入口まで戻りました。
ジッと辺りを警戒します。
すると…
「足音…話し声も…」
下から階段を上る人の気配を感じます。
「キシシシ。鍵を無くしたら反省文モノだナ」
「お嬢…完全に他人事ですね」
「黙って探しナ。鍵はかけたから階段のどこかに落ちてるヨ。たぶん…」
恐らく上級生であろう男女2人組がここへ向かって来ます。
彼女は息をのみました。
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登場人物紹介

鈴音(すずね)


修道院の貧困を救うためにお金を稼げる大人を目指している孤児院出身の女の子。

努力と根性で高名な魔法学校に次席入学を果たした。

過去に壮絶な死別を経験しており、食べ物を粗末にする事を極端に嫌う。

明るく積極的で協調性にも優れ友達が多い。

しかし実は周囲の生徒と価値観が合わず、本当の友達と呼べるのはランカ一人しかいない。


モデル:CHOCO鈴音

蘭華(ランカ)


すずねの親友で魔法学校を主席で入学した秀才。

天才肌で大抵の勉強は授業のみで覚えられる。

しかし将来に対して何の希望も目標も持てず悩んでいる。

明るく行動的なすずねに刺激を受けてうわさ話を追いかけている。

意外と抜けている一面も。

好物はラーメン。


モデル:CHOCO蘭華

無糖あず(語り手)


二次創作“君影草と魔法の365日”の作者。

トーク作品で一話の“消えた石像の謎”や没ネタ、没エピソードも公開中。

君影草を好きになってくれた人はぜひ!

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