甘美な夢
文字数 1,000文字
一年程前の話です。
まだ両親が一緒に働いていた頃のフラワー・デイジーは8割が女性客。
でもデイジーさん一人に任される様になって、だんだんと男性客が増えていきました。
皆一様に優しく誠実そうで花が大好きだと言ってくれる人ばかりです。
水を汲めば重たいバケツを持ってくれます。
入荷した花を検品していると、駆けつけて全て運んでくれます。
顔を出す度に『何か困ってる事はない?』と声を掛けてくる人もいます。
彼女が何かお返しをしようとしても『いいから、いいから』とみんな首を横に振りました。
自分が好きでやってることだからお礼はいらないと言うのです。
この町の人はとても親切で自分は本当に幸せ者だと思いました。
順風満帆だと信じて疑わなかったある夏の日。
「その人は本当に素敵な人だったのよ」
そう話すデイジーさんは笑顔の中に何か物悲しげな表情を見せました。
それは始めから苦い結末を予感させます。
学生時代だって人並みに男の子とも付き合いました。
でもその時、生まれて初めて身を焦がす様な大人の恋をしたのです。
紳士的で敬愛出来る彼との恋はすぐに実りました。
そして1ヶ月も経たずにソレが幻影であったと思い知らされたのです。
真夏の夜の甘美な夢だけを残し、彼はどんどん冷たく残酷に変わっていきました。
デイジーさんはすっかり参ってしまい、秋の紅葉を待たずして別れを選んだのです。
次の日の朝。
彼女は普通に開店の準備をしていました。
自分自身で驚くほど普段通りに笑顔で接客し、いつも通りに1日が過ぎていました。
いつも通り…?
…違う。
いつの間にか流れ作業になった接客。
いつの間にか離れてしまった常連さん。
残ったのは…何?
今日来店したお客さんは本当に花を大切にしてくれる人?
その日を境に彼女は変わりました。
手伝いの申し出があっても仕事だからと断ります。
優しい言葉にも気の無い笑顔で返せる様になりました。
そうして半年が経ち、ようやくかつての常連さんが顔を覗かせてくれる様になったのですが…。
最近になってまた男性の出入りが多くなってきた気がします。
彼らは事あるごとに話しかけ、贈り物を渡そうとするのですが彼女は取り合いません。
すると、アプローチが出来ない彼らは競って花を買うようになりました。
お店は繁盛します。
お店は繁盛するのですが…。
デイジーさんは分からなくなってしまいました。
まだ両親が一緒に働いていた頃のフラワー・デイジーは8割が女性客。
でもデイジーさん一人に任される様になって、だんだんと男性客が増えていきました。
皆一様に優しく誠実そうで花が大好きだと言ってくれる人ばかりです。
水を汲めば重たいバケツを持ってくれます。
入荷した花を検品していると、駆けつけて全て運んでくれます。
顔を出す度に『何か困ってる事はない?』と声を掛けてくる人もいます。
彼女が何かお返しをしようとしても『いいから、いいから』とみんな首を横に振りました。
自分が好きでやってることだからお礼はいらないと言うのです。
この町の人はとても親切で自分は本当に幸せ者だと思いました。
順風満帆だと信じて疑わなかったある夏の日。
「その人は本当に素敵な人だったのよ」
そう話すデイジーさんは笑顔の中に何か物悲しげな表情を見せました。
それは始めから苦い結末を予感させます。
学生時代だって人並みに男の子とも付き合いました。
でもその時、生まれて初めて身を焦がす様な大人の恋をしたのです。
紳士的で敬愛出来る彼との恋はすぐに実りました。
そして1ヶ月も経たずにソレが幻影であったと思い知らされたのです。
真夏の夜の甘美な夢だけを残し、彼はどんどん冷たく残酷に変わっていきました。
デイジーさんはすっかり参ってしまい、秋の紅葉を待たずして別れを選んだのです。
次の日の朝。
彼女は普通に開店の準備をしていました。
自分自身で驚くほど普段通りに笑顔で接客し、いつも通りに1日が過ぎていました。
いつも通り…?
…違う。
いつの間にか流れ作業になった接客。
いつの間にか離れてしまった常連さん。
残ったのは…何?
今日来店したお客さんは本当に花を大切にしてくれる人?
その日を境に彼女は変わりました。
手伝いの申し出があっても仕事だからと断ります。
優しい言葉にも気の無い笑顔で返せる様になりました。
そうして半年が経ち、ようやくかつての常連さんが顔を覗かせてくれる様になったのですが…。
最近になってまた男性の出入りが多くなってきた気がします。
彼らは事あるごとに話しかけ、贈り物を渡そうとするのですが彼女は取り合いません。
すると、アプローチが出来ない彼らは競って花を買うようになりました。
お店は繁盛します。
お店は繁盛するのですが…。
デイジーさんは分からなくなってしまいました。