会話という布石

文字数 931文字

暇を持て余していたオルガンは、リリーに様々な話を聞かせました。
かつては教会で大勢の子供達に囲まれていた事。
もう500歳以上で正確な歳が分からない事。
滅多に人が遊びに来なくて退屈だったけど、最近は決まった曜日に弾いてくれる人がいる事。
二人はすっかり仲良くなりました。
彼女は自然に“オルガン爺”と呼びました。
それは偶然にも教会で子供達に呼ばれていた愛称と同じだったので、彼はすっかり気持ちを良くしました。
「へぇー。オルガン爺自身がオルガンを演奏してんだね。上手いもんだよ」
「オレはその為に作られたからな」
「アタイの役割は…何の為に生まれてきたか分かるかい?」
妖精は必ず役割を持って生まれて来ます。
“花の妖精”ならその花と共にあって、守り育てて種を運ぶ役割が。
“雪の妖精”なら“冬を告げる精霊”と世界を巡り雪を降らせる役割が。
彼女は誇らしげにポーズを決めます。
「アタイは“鍵の妖精”なのさ」
「鍵?」
彼女が話を続けようとしたその時。
カンと乾いた物音と人の気配がしました。
彼女はドキッとして視線を向けます。
そこにはやたらリアルな人間の骨格標本がフックに吊してありました。
「ただの模型かよ。悪趣味だね」
骨格標本は何故か派手なネクタイを締めてます。
「本人が言うには一番のお気に入りらしいぜ」
「お気に入り?」
「その人は教頭のダグラス先生だ 。オレのルームメートだな」
ダグラス先生は人間の骨格に仮初めの命を宿した魔法生物。
学校で唯一の人間ではない先生で教頭を任されています。
『学校の教諭!?
彼女に緊張が走りました。
しかしダグラスと紹介された彼は起きる様子もなく動きません。
「教頭はいつもここで寝ているよ。オレの話し相手さ」
教頭先生が犬に骨を持っていかれてバラバラになった事。
それ以来、寝ている間に襲われない様フックにぶら下がってる事。
オルガン爺はまた色々と話してくれました。
彼女は努めて自然に振る舞い、あえて彼と話し続けます。
小一時間経った後。
「もう仕事に戻らなきゃいけない時間だ。また来るよオルガン爺」
「そうか。またな」
リリーは部屋から出て行きました。
「鍵の妖精…ですか」
ダグラス教頭は呟きます。
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登場人物紹介

鈴音(すずね)


修道院の貧困を救うためにお金を稼げる大人を目指している孤児院出身の女の子。

努力と根性で高名な魔法学校に次席入学を果たした。

過去に壮絶な死別を経験しており、食べ物を粗末にする事を極端に嫌う。

明るく積極的で協調性にも優れ友達が多い。

しかし実は周囲の生徒と価値観が合わず、本当の友達と呼べるのはランカ一人しかいない。


モデル:CHOCO鈴音

蘭華(ランカ)


すずねの親友で魔法学校を主席で入学した秀才。

天才肌で大抵の勉強は授業のみで覚えられる。

しかし将来に対して何の希望も目標も持てず悩んでいる。

明るく行動的なすずねに刺激を受けてうわさ話を追いかけている。

意外と抜けている一面も。

好物はラーメン。


モデル:CHOCO蘭華

無糖あず(語り手)


二次創作“君影草と魔法の365日”の作者。

トーク作品で一話の“消えた石像の謎”や没ネタ、没エピソードも公開中。

君影草を好きになってくれた人はぜひ!

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