開かずの扉

文字数 949文字

「ここだここだ。ここに来ねぇと意味がねぇだ」
「やっぱりなの」
学生寮の二階。
温室に行く途中の廊下。
引っ越して来た日の楽しい思い出がある場所。
その扉だけ他とは違う雰囲気です。
黄金色の細工にはめ込まれたクリスタル。
上には図形を指す針のレリーフ。
でもソレらは長い間磨かれた様子が無く、曇った鈍い光を反射しています。
しかも誰かさんのせいで“触れるな!!”の張り紙が…。
とても立派な装飾が施された扉なんですが、色々と台無しで残念な感じになっていました。
不思議なのは鍵穴が無い事。
鍵自体は魔法でかける事も可能ですが、大事な部屋なら物理的な施錠と合わせた方が安全です。
「・・・・・・」
彼女にとって開かずの扉の前は鬼門なんですよね。
通らなければならない時は必ず足早になります。
ただ、自身でも何故こんなに意識してしまうのか分からないでいました。
そんな彼女を気に留める事もなく、地底人はガイドブックを読み始めます。
「この扉は色々な場所に繋がる魔法の扉です…って書いてあるべ」
それは聞いた事も無い話でした。
特別な鍵を使わないと開かず、使う鍵によって行ける場所が変わるそうです。
それは現実の世界を渡るだけでは無く、時空を越えたり心の中にも入れるとか。
しかも一本の鍵では行ったっきりで戻って来れなくなってしまうらしいんです。
…て、あのガイドブックに書いてある話ですけどね。
「イタズラで黄泉への扉を開けちまって、住人全員連れてかれちまったって言うでねぇか。」
「ナルホド。だから誰も住まない家なんだね」
「またどーせガセネタなの」
そんな危険な場所が学生寮になるわけないし。
それに扉からは魔法的な“力”を感じません。
いくら雰囲気満点な扉でも、魔法学を志す彼女達にしてみたらリアリティーが足りないんです。
ただ…。
この記事にも元になった出来事があるのでしょうか?
「黄泉…死後の世界に繋がる…の?」
すずは言い知れない不安感や恐怖の正体が分かった気がしました。
「こんな恐ぇー扉作っちまうなんて地上人は変わってんな。しかし地上はおもしれーなぁ」
ワザワザ地底から観光に来て、張り紙のされた古い扉を眺めただけで満足してる貴方の方が変わってるよ。
ランカは心の中で突っ込みました。
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登場人物紹介

鈴音(すずね)


修道院の貧困を救うためにお金を稼げる大人を目指している孤児院出身の女の子。

努力と根性で高名な魔法学校に次席入学を果たした。

過去に壮絶な死別を経験しており、食べ物を粗末にする事を極端に嫌う。

明るく積極的で協調性にも優れ友達が多い。

しかし実は周囲の生徒と価値観が合わず、本当の友達と呼べるのはランカ一人しかいない。


モデル:CHOCO鈴音

蘭華(ランカ)


すずねの親友で魔法学校を主席で入学した秀才。

天才肌で大抵の勉強は授業のみで覚えられる。

しかし将来に対して何の希望も目標も持てず悩んでいる。

明るく行動的なすずねに刺激を受けてうわさ話を追いかけている。

意外と抜けている一面も。

好物はラーメン。


モデル:CHOCO蘭華

無糖あず(語り手)


二次創作“君影草と魔法の365日”の作者。

トーク作品で一話の“消えた石像の謎”や没ネタ、没エピソードも公開中。

君影草を好きになってくれた人はぜひ!

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