心を映す空
文字数 940文字
デイジーさんはホウキに股がると素早く“魔法式”を唱え風をまといました。
あ、魔法式はいわゆる呪文の事です。
厳密に言うと少し違うのですがウンチクはまた後日。
「飛んで…」
軽く地面を蹴ると体は重力から解き放たれたかの様に浮き上がりました。
10メートル程の高さで一度止まると、ある一点を目掛けて進み始めます。
空は心の内を映す鏡の様に黒い雲で覆われていて、今にも雨が降りだしそう。
『やっぱり軽蔑されたよね…』
いま考えているのは黒猫急便のオジサンの事。
いえ、オジサンなんかじゃありません。
彼女の幼なじみでクラスメイトだった人なんですから。
ちょっとポッチャリなタケル君。
口が悪くてヤンチャで一時期ガキ大将だったけど、お花が好きな為に失脚した過去をもつ、ちょっと変わった男の子です。
子供の頃から実家の花屋に遊びに来て、一緒に育てかたの勉強をしたり、ドライフラワーの魔法の練習をしていました。
あの頃は呼び捨てで呼び合っていたな。
成長するに従って段々と疎遠になって…。
でも箱庭魔法学校までずっと同じ学校を通い続けました。
卒業後に彼が黒猫郵便社に就職して、この町に配属された時はとても嬉しかったのを覚えています。
自分が店を任された時はお祝いもしてくれました。
彼は大人になった今でもお花が大好きで、ちょくちょくお店に来てくれました。
来てくれていたんです。
私は“花が好きな自分”に酔ってただけかも知れない。
グッと力を込めた分だけグングン加速してゆきます。
いつの間にか常識の範疇を超えたスピードでホウキを飛ばしていました。
着いたのは町外れの橋。
花が捨てられていた河原です。
この前に見た盛り土は見当たりません。
でも、新しく別のソレが積み上がっていました。
また誰かが捨てたのでしょう。
ただ…。
一緒にあるはずの花は1本も見当たりません。
きっと彼は悲しんでいる。
見つけて心を痛めて拾い集めたんだ。
きっと彼は怒っている。
だから最近ちっとも店に来てくれないんだ。
きっと彼は呆れている。
さっきも私に会いたくないから去ってしまったんだ。
彼女にとってその思いは、失恋なんかよりずっと重く辛い事でした。
雫が落ちてきて頬を濡らします。
雨が降り始めました。
あ、魔法式はいわゆる呪文の事です。
厳密に言うと少し違うのですがウンチクはまた後日。
「飛んで…」
軽く地面を蹴ると体は重力から解き放たれたかの様に浮き上がりました。
10メートル程の高さで一度止まると、ある一点を目掛けて進み始めます。
空は心の内を映す鏡の様に黒い雲で覆われていて、今にも雨が降りだしそう。
『やっぱり軽蔑されたよね…』
いま考えているのは黒猫急便のオジサンの事。
いえ、オジサンなんかじゃありません。
彼女の幼なじみでクラスメイトだった人なんですから。
ちょっとポッチャリなタケル君。
口が悪くてヤンチャで一時期ガキ大将だったけど、お花が好きな為に失脚した過去をもつ、ちょっと変わった男の子です。
子供の頃から実家の花屋に遊びに来て、一緒に育てかたの勉強をしたり、ドライフラワーの魔法の練習をしていました。
あの頃は呼び捨てで呼び合っていたな。
成長するに従って段々と疎遠になって…。
でも箱庭魔法学校までずっと同じ学校を通い続けました。
卒業後に彼が黒猫郵便社に就職して、この町に配属された時はとても嬉しかったのを覚えています。
自分が店を任された時はお祝いもしてくれました。
彼は大人になった今でもお花が大好きで、ちょくちょくお店に来てくれました。
来てくれていたんです。
私は“花が好きな自分”に酔ってただけかも知れない。
グッと力を込めた分だけグングン加速してゆきます。
いつの間にか常識の範疇を超えたスピードでホウキを飛ばしていました。
着いたのは町外れの橋。
花が捨てられていた河原です。
この前に見た盛り土は見当たりません。
でも、新しく別のソレが積み上がっていました。
また誰かが捨てたのでしょう。
ただ…。
一緒にあるはずの花は1本も見当たりません。
きっと彼は悲しんでいる。
見つけて心を痛めて拾い集めたんだ。
きっと彼は怒っている。
だから最近ちっとも店に来てくれないんだ。
きっと彼は呆れている。
さっきも私に会いたくないから去ってしまったんだ。
彼女にとってその思いは、失恋なんかよりずっと重く辛い事でした。
雫が落ちてきて頬を濡らします。
雨が降り始めました。