五つのクリスタル

文字数 1,061文字

ここは最初に出会った採石所。
カンテラの灯りが揺れています。
地底人はお礼にとダイヤモンド探しを手伝ってくれました。
彼はまるで銅貨の中から金貨を拾い上げるかの様に淡々と鉱石を渡してきます。
本来、持って見るだけで目的のクリスタルが含まれた石を探すのは不可能です。
鑑定士はクリスタルに数種類の魔力を通し、その屈折率や反射・吸収率を調べて、その差で判断していました。
学生は未熟なので更に“測定器”と呼ばれる小さな筒にレンズがはめ込まれた道具を覗きこんで調べます。
すずとランカは半信半疑で彼から渡された石を鑑定してみました。
「凄い! 間違いなくダイヤなの」
「これも…これもよ」
瞬く間に持ちきれない程の鉱石が集まりました。
「ありがとう。これだけ有れば十分なの」
それを聞いた彼はクルッと体をねじると、ジャンプして採石所の真ん中に立ちます。
お別れの時。
「お土産まで貰っちまってすまねぇな」
地底人は手に地上の週刊ファッション雑誌“ベリーズ”を携えています。
ランカの提案でガイドブックと物々交換したのでした。
「案内ありがとな。おらの名はサファル」
このタイミングで名乗るんですか(汗)
「世話になったら本当の名前さ教えるのが地底人の習わしだ」
彼は地面に向かって飛び込むと岩盤は拒むコト無く受け入れて、まるで水面の様に波紋が広がっていきました。
しかしそれは一瞬の出来事で静かな冷たい洞窟の地面がいつも通りそこにあります。
「ちょっとズレてたけど地上に悪意があるわけじゃなかったみたいなの」
手を振ったらバイバイって振り返してくれました。
でも次から大勢で押し寄せて来たら、ちょっと恐いかもしれませんね(笑)
すずは鉱石を運ぶ為に持ってきた麻布の袋を広げて…。
「そういえば、最初はコレに釣られて案内を引き受けたの」
お礼に貰ったクリスタルを手に取りました。
黒い血の様な赤。
黄昏の様に深いオレンジ。
太陽の様に白い黄。
深海の様に暗い青。
無に等しい透明。
大小様々な五つの石。
美しく磨きあげられたソレ等は魅惑的に煌めいています。
「何を貰ったのか確かめてみようよ」
「OK」
二人は早速鑑定を試みました。
クリスタルをランタンに掲げて測定器で覗きこみ、力を抑えて魔力を送ります。
しかし…。
「ランカ分かった?」
「駄目。鑑定表に載ってる石のどれとも違うよ」
どんなに確かめても石の種類が分かりません。
「ねぇねぇ…」
ソレが何を指すのか。
考えられる理由は一つ。
「既に魔法が封じ込められているの?」
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登場人物紹介

鈴音(すずね)


修道院の貧困を救うためにお金を稼げる大人を目指している孤児院出身の女の子。

努力と根性で高名な魔法学校に次席入学を果たした。

過去に壮絶な死別を経験しており、食べ物を粗末にする事を極端に嫌う。

明るく積極的で協調性にも優れ友達が多い。

しかし実は周囲の生徒と価値観が合わず、本当の友達と呼べるのはランカ一人しかいない。


モデル:CHOCO鈴音

蘭華(ランカ)


すずねの親友で魔法学校を主席で入学した秀才。

天才肌で大抵の勉強は授業のみで覚えられる。

しかし将来に対して何の希望も目標も持てず悩んでいる。

明るく行動的なすずねに刺激を受けてうわさ話を追いかけている。

意外と抜けている一面も。

好物はラーメン。


モデル:CHOCO蘭華

無糖あず(語り手)


二次創作“君影草と魔法の365日”の作者。

トーク作品で一話の“消えた石像の謎”や没ネタ、没エピソードも公開中。

君影草を好きになってくれた人はぜひ!

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