道なき道

文字数 926文字

「大きな翼が見えたけど絶対に鳥なんかじゃないの」
すずとランカは“大きな翼を持つ影”の正体を確かめる為に、黄昏の樹海へやってきました。
目指すのは普段の整備された道を外れた獣道さえ無い道無き道の先。
まだ結界の範囲内とはいえ、迷えば間違いなく遭難する危険な場所です。
ランカは適当な木に手のひら程のシールを貼ると、書かれた魔法文字を人差し指でなぞりながら魔法式を唱えました。
ゆっくり中心から指を離すと白く細い光の糸が現れます。
それは簡単で消耗が少ない便利な魔法でした。
糸は術者が解くまで延び続け、引き返す時の目印になるんです。
でも、大丈夫でしょうか?
樹海は広く深く全てを飲み込んでしまう緑の闇。
100メートルも歩くと、光の糸無しではもと来た道が分からなくなります。
辺りは木々のざわめきに包まれて、何の気配も感じられません。
用意したコンパスは針をグルグルさせていました。
「このまま北西に進路をとれば、すずの席から見た落下地点を通るハズだけど…」
まだ10分も歩いていませんが、ランカは敏感に危険を感じ取っていました。
命の綱である光の糸も、シールが破けるか糸が切れれば、跡形もなく消えてしまいます。
「ねぇねぇ、引き返さない?」
それは自分の経験では対処出来ないアクシデントの予感。
自身の経験不足を正しく認識しているから出来る的確な判断でした。
でも、すずは耳を立てたまま先へ先へ進みます。
「大丈夫。もう少しなの」
何か確信をもったすずが少し急な斜面をのぼります。
不安を抑えながらランカも後に続くと、急に視界が開けました。
薙ぎ倒された数十本の木。
クレーターの様にえぐれた地面。
影の主は間違い無くココに落ちたみたいです。
先には大きくクチを開けた洞窟。
その奥から唸る様な声が聞こえました。
「ねぇねぇ、先生達に知らせようよ」
恐らく洞穴の奥には得体の知れない生き物が身を潜めています。
しかも辺りの様子から想像して相当な大きさ。
意思の疎通が出来ない相手なら、襲われてしまうかも知れません。
しかし…。
「すず?」
ランカが止めるのも聞かず更に前へ。
「聞こえるの」
意味不明な言葉を残して、すずは洞窟に入ってしまいました。
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登場人物紹介

鈴音(すずね)


修道院の貧困を救うためにお金を稼げる大人を目指している孤児院出身の女の子。

努力と根性で高名な魔法学校に次席入学を果たした。

過去に壮絶な死別を経験しており、食べ物を粗末にする事を極端に嫌う。

明るく積極的で協調性にも優れ友達が多い。

しかし実は周囲の生徒と価値観が合わず、本当の友達と呼べるのはランカ一人しかいない。


モデル:CHOCO鈴音

蘭華(ランカ)


すずねの親友で魔法学校を主席で入学した秀才。

天才肌で大抵の勉強は授業のみで覚えられる。

しかし将来に対して何の希望も目標も持てず悩んでいる。

明るく行動的なすずねに刺激を受けてうわさ話を追いかけている。

意外と抜けている一面も。

好物はラーメン。


モデル:CHOCO蘭華

無糖あず(語り手)


二次創作“君影草と魔法の365日”の作者。

トーク作品で一話の“消えた石像の謎”や没ネタ、没エピソードも公開中。

君影草を好きになってくれた人はぜひ!

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