滝の様に流れる涙

文字数 1,027文字

モチモチしたクレープに特製クリームを塗って、ソレを何層にも重ねたケーキ。
ソレはすずとランカ渾身の一皿。
ヤドクガエルのミルクレープがガーゴイルの前に置かれています。
一見フルーツの酸味を想像させる鮮やかな赤紫色は、恐らく毒の成分そのもの。
勿論2人は味見無しで作っています。
「お二人のご協力で色々な料理を試したでありますな」
ガーゴイルはジッとお皿の上のケーキを見つめながら言いました。
コレまでの様に話も聞かずペロリとはいきません。
彼からは明らかな疲れと焦りの色が見てとれます。
ずっと見張りの仕事を放り出しておくわけにもいきません。
記憶に間違いが無ければ、コレが最後の材料。
もし効果が無ければ…。
「これならばいけそうな気がするであります! それでは早速いただいてみるであります!」
悪い予感を拭う様に、気丈に振る舞うガーゴイル。
長い舌でケーキを掴むとやはり一口で、しかし頬張ってゆっくり味わいます。
「ねぇねぇ、ガーゴイルさん?」
少し長い沈黙の後、彼は笑顔でこう言いました。
「お二人の気持ちが詰まったこのケーキ。とっても美味しいであります」
ラズベリーとブルーベリーの酸味を生かした爽やかなクリーム。
程よい弾力のあるクレープは全体の食感を損なわない程度に噛み心地を主張します。
ソレはどこにヤドクガエルを使ったのか分からない程美味しいミルクレープでした。
そして頭もまぶたも重いまま。
残念ですが最後の料理には全く効果が見られません。
ガーゴイルは大きく落胆しました。
恐らく彼はお役御免。
物言わず動かない普通の石像に戻されてしまうかも知れないのですから。
でもソレとは別に2人への申し訳ない気持ちと感謝が溢れてきます。
「少しでも眠気が覚める様にと、脳天を突き抜ける刺激的な味を期待していたでありますが…」
瞳からは大粒の涙。
「最後にこんな美味しい料理を食べられて幸せでありました」
そもそも生徒と接する事を禁じられていたガーゴイル。
護っていた相手がこんなにも優しく素直で、しかも自分の為に懸命に動いてくれた事が嬉しかったのです。
彼は音も無く泣き始めました。
ソレを見ていたすずとランカは…
「やったネ!」
お互いの右手をパチンと叩いて喜びを分かち合います。
「…な、なんでありますか?」
意味が分からず疑問符を浮かべます。
「あれ…何かおかしいでありますよ?」
ただ涙は枯れる事を知らず、むしろ滝の様に流れ続けました。
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登場人物紹介

鈴音(すずね)


修道院の貧困を救うためにお金を稼げる大人を目指している孤児院出身の女の子。

努力と根性で高名な魔法学校に次席入学を果たした。

過去に壮絶な死別を経験しており、食べ物を粗末にする事を極端に嫌う。

明るく積極的で協調性にも優れ友達が多い。

しかし実は周囲の生徒と価値観が合わず、本当の友達と呼べるのはランカ一人しかいない。


モデル:CHOCO鈴音

蘭華(ランカ)


すずねの親友で魔法学校を主席で入学した秀才。

天才肌で大抵の勉強は授業のみで覚えられる。

しかし将来に対して何の希望も目標も持てず悩んでいる。

明るく行動的なすずねに刺激を受けてうわさ話を追いかけている。

意外と抜けている一面も。

好物はラーメン。


モデル:CHOCO蘭華

無糖あず(語り手)


二次創作“君影草と魔法の365日”の作者。

トーク作品で一話の“消えた石像の謎”や没ネタ、没エピソードも公開中。

君影草を好きになってくれた人はぜひ!

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