マンゴラZ

文字数 991文字

薬を塗って15分。
傷口は新しいかさぶたで被われていて、痛みもかなり引いています。
【まるでヒーリングを受けている様だな】
ドラゴンは驚いていました。
ヒーリングとは医療で使われる治癒魔法の総称。
ゲームの様に体力を回復する事は出来ませんが、病気や怪我の治りを早める事ができます。
それなりに経験を積んだ術者が時間をかけて行うものなのですが、蛙油キズナインはそれに匹敵する効能を発揮したのでした。
更に…。
【もう傷は大丈夫なの】
【これを飲んでゆっくり休んでよ】
すずとランカは飲み薬も用意していました。
注ぎ口の付いた樽を二人で持ち上げると、こぼさない様に少しずつ口に流し込みます。
【…お、おおお。この薬は…】
彼は無意識に声を上げていました。
【“マンドラゴラの根”を煎じたのか? お前達、こんな貴重な薬をこんなに沢山…】
【貴重? そんな高価な材料使った?】
すずの問いにランカは首を横へふります。
この薬はかめやで常時販売されている栄養ドリンク剤“まんごらZ”
確かに貴重な生薬“マンドラゴラ”を文字った名前がついていますが、材料はごく普通に用意出来る安価なものを使ってます。
長年研究された調合レシピと一子相伝のまじないが成せる業なんですよね。
【病み上がりの時とか連続で試験の日に、アタシはコレをよく飲むよ】
元気がみなぎってくる滋養強壮と栄養補給のマストアイテム。
アクティブに動きたい時のサンライズと、おやすみ前に飲んで疲れを癒すムンライトの二種類があります。
【そうか…うむ…いいカンジだ。だいぶ楽になった気がするな】
身体の細胞の一つ一つに、水分とエネルギーが吸収されてゆく感覚。
それは空腹と孤独と寒さに閉ざされた闇夜に、不意に渡された温かいスープ。
交流を断って百十余年。
竜族には信じられないスピードで、人間の文明は発展している様です。
彼は猫の様に丸くなると静かに瞳を閉じました。
【お前達には感謝している。少し休ませてもらおう】
過去の事と頭では分かっていても、人間を侮蔑し懐疑的な自分。
若い頃は義勇に駆られて戦争に参加もしました。
戦友を失ったあの日。
本当に人間を滅ぼしたいと願いました。
『愚かなのは俺かもしれんな…』
彼女達はこんなにも親身に自分を助けようとしてくれている。
彼は深呼吸をすると、吸い込まれる様に深い眠りへ落ちていきます。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

鈴音(すずね)


修道院の貧困を救うためにお金を稼げる大人を目指している孤児院出身の女の子。

努力と根性で高名な魔法学校に次席入学を果たした。

過去に壮絶な死別を経験しており、食べ物を粗末にする事を極端に嫌う。

明るく積極的で協調性にも優れ友達が多い。

しかし実は周囲の生徒と価値観が合わず、本当の友達と呼べるのはランカ一人しかいない。


モデル:CHOCO鈴音

蘭華(ランカ)


すずねの親友で魔法学校を主席で入学した秀才。

天才肌で大抵の勉強は授業のみで覚えられる。

しかし将来に対して何の希望も目標も持てず悩んでいる。

明るく行動的なすずねに刺激を受けてうわさ話を追いかけている。

意外と抜けている一面も。

好物はラーメン。


モデル:CHOCO蘭華

無糖あず(語り手)


二次創作“君影草と魔法の365日”の作者。

トーク作品で一話の“消えた石像の謎”や没ネタ、没エピソードも公開中。

君影草を好きになってくれた人はぜひ!

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み