妖精リリーの仕事

文字数 1,030文字

言霊石を通じて皇子と話したのは、星読みの塔に侵入した二日後。
すず達と紅茶を楽しむ前日の午前5時の事です。
「無事に始まりと終わりの扉を通過出来た様だね。ご苦労様リリー」
「遅いよ。何やってたんだい」
途端に悪態をつく彼女。
でも内心では安堵の溜め息を洩らしていました。
本当なら直ぐに声が聞けるハズだったのに、50時間以上も待たされたのですから。
「今も僕は籠に閉じ込められている。自由には話せないんだよ」
「皇子を石に変えた魔術師にかい?」
「そう…時間が無いんだ。頼まれてもらうよ」
「任せな。アタイはその為に生まれてきたんだろ?」
「・・・・・・」
彼は何かを言いかけて少し沈黙し、恐らく言葉を変えて話し始めます。
「そこから西に向かうと魔法学校がある。君は時計台の小さな丸い窓を通って中に入り、オルガン奏者に会わなければならない」
「オルガン奏者?」
「パイプオルガンの鍵盤を踏み鳴らせば、会うことが出来るだろう」
「会った後は?」
「君は彼との会話の中で“妖精の役割”の話をしなければならない」
「“鍵”の事をかい?」
彼の声は見た目より幼い感じ。
でも強い意志を秘めた雰囲気で流石は王族です。
「その通り。そこに1つ“約束”がある。誰かに会話を聞かれなくてはならない。しかし話し掛けられてはいけない」
「は? …あぁ、つまり盗み聞きされろって事かい」
「後は頃合いを見て帰ればいいよ」
まるで予定された未来をなぞる指示。
それはリリーの新しい仕事でした。
先ずは無事らしい声を聞いて、いつも通りの指示を受けて。
すっかり安心した彼女は少し気を弛めます。
「分かったよ。ところで…ちょっと会わなかった間に、雰囲気が変わったんじゃないかい?」
それは声を聞いた瞬間の感想。
ちょっとした意地悪も込められています。
しかし、声は彼女の知らない色を帯びて答えました。
「ちょっと? 扉を越えたリリーにしてみれば一瞬だったかもしれないね」
「…皇子?」
彼女は絶句します。
それは知らされていなかった事実。
リリーは皇子から予言を託されていました。
国が滅亡する事も、皇子が“魂”を抜かれて石化する事も、全て事前に分かっていたのです。
彼女の使命は“魂”を迎えに、ちょっと先の未来へ“石化した身体”を連れて来る事。
皇子の石化を解いて民の待つ国へ帰る事。
でも、それは叶わないと分かりました。
「この世界はね、君が僕と別れてから800年も後の世界なんだよ」
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登場人物紹介

鈴音(すずね)


修道院の貧困を救うためにお金を稼げる大人を目指している孤児院出身の女の子。

努力と根性で高名な魔法学校に次席入学を果たした。

過去に壮絶な死別を経験しており、食べ物を粗末にする事を極端に嫌う。

明るく積極的で協調性にも優れ友達が多い。

しかし実は周囲の生徒と価値観が合わず、本当の友達と呼べるのはランカ一人しかいない。


モデル:CHOCO鈴音

蘭華(ランカ)


すずねの親友で魔法学校を主席で入学した秀才。

天才肌で大抵の勉強は授業のみで覚えられる。

しかし将来に対して何の希望も目標も持てず悩んでいる。

明るく行動的なすずねに刺激を受けてうわさ話を追いかけている。

意外と抜けている一面も。

好物はラーメン。


モデル:CHOCO蘭華

無糖あず(語り手)


二次創作“君影草と魔法の365日”の作者。

トーク作品で一話の“消えた石像の謎”や没ネタ、没エピソードも公開中。

君影草を好きになってくれた人はぜひ!

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