最初の歯車(1)

文字数 623文字

「今から久しぶりに行かない?いつものコース。」

 勇人が(行かないわけないよな?)というような表情で言った。絶対、後悔させない、退屈させないこと請け合いといった得意げともいえる表情。

 いつものコースというのは勇人の「庭」の店のどこかでアメリカの軽くて喉ごしのいいビールでも飲みながら、ビールと同じように軽くて悪酔いしない気軽な女の子を引っかけて楽しい時間を過ごすことだ。

 実際勇人の表情が物言う通り、勇人のいういつものコースで退屈だったことは一度もなかったし後味の悪い思いをしたこともなかった。

「ごめん、バイト入ってるんだよ。」

「バイト?そんなもんサボっちゃえないの?自分の好きな時間に自分のペースで入ったり出たり出来るところだろ?言ってたやつ」

「勇人のとこと違ってうちは普通のサラリーマン家庭だからね。そんなにスネばかりかじってもいられない。」

「いや、違うだろ?素直に白状しろ。」

 勇人はお見通しだぞというような顔をして言った。

「俺の誘いを断ってまでも和志はバイトに行きたいんだ。だろ?」

 図星だった。他の用事なんて二の次と思える理由があった。

「図星だな。俺もいってみようかな、そのバイト先。」

「え?勇人が?」

「なんだよ、俺が行ったらマズイの?」

「いや、そんなことはないけど。バイトなんてする必要ないだろ?」

「和志が楽しそうだからさ。誰でも入れるんだろ、そこ。サークルみたいだって言ってたじゃないか。」

「じゃあ、今から一緒に行くか。」

「行こう。」
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