トラブル(4)

文字数 782文字

「辞めさせたら?」

「は?」

 鬼川の言葉に唖然とした。こんなことで辞めさせるなんて出来るわけがないことくらいマネージャーなら知ってる筈なのにいったい何を言い出すんだろう?

「辞めるように仕向けるのよ。何とでもできるじゃない?少なくともちょっと脅かしといて緊張感持ってもらわないと。」

 鬼川の言っていることが受け入れがたくて莉乃は真意を掴もうと正面から向かい合った。

「こんな状態では次回契約更新が難しいって言えばいいのよ。」

 鬼川は莉乃の困惑の眼差しなどに動じるわけもなく、何を驚く必要があるのかというような顔で逆に咎められた。

「でも最近は本当にミスもしてなかったし…辞めるように仕向けるなんて…」

「出来ないって言うの?」

 鬼川は鼻で笑って言った。

「もしかしてメンバーに嫌われたくないなんて思ってるんじゃないの?我々は嫌われてなんぼよ。人気者でいたいなんて考えは捨てなさい。」

「そんな、人気者でいたいなんて思ってるわけじゃありません。そう言うことじゃなくて…」

「何よ?」

「本人に辞めたいって意思もないのにそんなふうに仕向けたりしたくはありません。マネージャーみたいな指導の仕方しかないってわけじゃないと思います。」

「あら。私のやり方が間違ってるっていうの?」

「そうは言ってません。」

「あなたもずいぶん偉くなったものね。私に意見するなんて。」

 鬼川は莉乃をねめつけながら言った。

「でも結局こうして私が足を運ぶ羽目になるんだから。とにかく本人にはお灸を据えておかないと。今日は来てる?」

「はい。います。」

「あなたじゃ心許ないから私から注意するわ。行きましょ。」

 鬼川は言いながら立ち上がった。莉乃も続いて立ち上がった。

 これから血祭りにあげられる田畑正子が気の毒で胃が痛くなってきた。

 隣のテーブルの男性陣が興味深そうに鬼川と莉乃を見ているのに気づいてさらに気が重くなった。
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