ダメージの予感(6)

文字数 494文字

「お父さんのことよ。」

「ああ・・・」

 直人はそう一言返事するとタブーであるかのように口をつぐんだ。真理沙もそれ以上何も言わなかった。

 雨音がマンションの密閉した空間にまで聞こえていた。外は猛烈な雨が降っているらしい。こうして部屋の中にいるとかえってその雨音は部屋の静けさを際立たせる。

 稲光が走って雷鳴が轟いた。

 直人は飲み終わったカップを手に立ち上がった。

「お母さんの思う通りすればいいんだよ。」

 真理沙は黙っていた。こんな時に返す言葉なんかみつからない。

「僕には関係ない。」

「関係ないってことはないでしょう?」

「関係ないよ。」

 直人はキッチンに向かいながら捨て台詞みたいに言った。

「そういう話に僕を巻き込まないでよ。お母さんもいい加減僕を言い訳にするの止めたら?」

「言い訳?」

「そうだよ。僕がいるから別れられないとかって、そういうのやめてほしいってこと。」

「そんなこと・・・」

 はっきり傷ついた。直人からこんなことを言われたことは無かったし直人が両親のことについて日頃感じていることを口にしたことも一切無かった。

 直人はそのまま静かにリビングを出ていった。微かに雨音だけが続いていた。
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