浮気男(1)

文字数 1,219文字


 真理沙は勇人と合コンで知り合った。いわゆるモテ男の典型。イケメンで明るいムードメーカー。

 だから勇人があからさまに近づいてきた時は真理沙もかなり警戒していた。

 それでも結局すぐに勇人の魅力に落ちた。人を惹きつけてやまない笑顔の持ち主で、その笑顔に魅了されたら抵抗出来ない。

 それは息子の直人にそっくり遺伝している。直人は父親のカリスマ的で明るいキャラクターと母親の神秘的とも言える透明な美しさを両方共受け継いだ。

 真理沙は四十路を過ぎた今でもせいぜい35歳にしか見えない美肌と美貌の持ち主で若い頃はハッとするほどの器量だった。

 結局、勇人と付き合いだしてすぐに真理沙は直人を妊娠した。

 真理沙が勇人の浮気癖に気づいたのは結婚直後だった。最初はひどくショックを受けた。

 結婚前に何人かの男性と付き合ったが浮気をされたことはなかった。

 逆に束縛がきつかったりする相手だと真理沙の方から冷めてしまったりして終わることはあった。

 真理沙は自分を責めた。
 妊娠中はセックスもあまり出来なかったから勇人が欲求不満になったんだと思った。

 さんざん泣いた後で一度くらいの浮気は許そうと思った。それより出産後、女としての魅力が落ちないように必死で努力した。

 今となれば「一度くらいの浮気」なんて思った自分が哀れだ。

 はるか昔の傷を思い出しながら真理沙は自虐的にふっと笑った。

 勇人の浮気癖は治らないと悟るまで、真理沙は真剣に悩んだ。

 出産後、直人の夜泣きがひどかったりまだ体が痛かったりしたけれど勇人から求められればセックスを拒むことはなかった。

 勇人の浮気は自分が悪いわけではないと納得するまでどれほど悩んだかわからない。

 勇人を責め自分を責めどれくらい泣いたか。どんなに傷ついたか。

 結局いつも真理沙は勇人を許した。
 裏切りは許し難いけれど、それでも勇人を愛していたから。

 勇人に抱かれて歓喜しながら見えない浮気相手への嫉妬に燃えた。

 いつ頃からだろう?
 真理沙が自分の勇人への愛に疑問を持つようになったのは。

 勇人は徐々に真理沙を抱かなくなった。
 かつては浮気をしている時でも勇人は真理沙を抱いた。

 セックスが間遠になっていき始めた時は浮気相手のせいだと思った。

 真理沙よりもハリのある若い肌に夢中になっているんだろうと思った。

 負けたくなかったから努力した。
 真理沙の方から誘うことはそれまであまりなかったけれど誘ってみた。

 真理沙から求めればたいがい勇人は抱いてくれた。

 でも勇人の方から求めてくることが激減したのだ。

 寂しかった。
 勇人に抱かれたかった。
 かつてのように夢中で愛して欲しかった。

 真理沙から頼んで「抱いてもらう」のではなく。

 本当は気づいていたけれど認めたくなかっただけ。気づいていたけれど受け入れ難かった。

「勇人は私に飽きたんだ。」

 そう認めるのは辛かった。
 まだ真理沙は愛していたから。

 まだ勇人をひたすら愛していたから。
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