パワハラ（２）

「向いてないんじゃないの？」

「え…？」

　莉乃もびっくりして鬼川の顔を凝視した。

「こういった仕事に適性があわないんじゃないかってお話してるんです。ご自分でどう思われますか？合ってるとお思い？」

「…わかりません。あまり､その適性とか…合ってるかってことですよね？」

　田畑はしどろもどろに答えた。顔は真っ赤で今にも泣きそうだ。

「私があなたに聞いてるのよ！合ってると思う？思わない？どっち？一度くらいはっきり答えてみてください。」

「あ、合ってない…かもしれません。」

　田畑は下を向いた。遂にポタッと涙が落ちた。

「合わないという自覚があるならこれ以上みんなの足を引っ張らないようにしたらどうですか？意識も低そうだし。」

「辞めろってことですか？」

　田畑は真っ赤な目で鬼川を見た。

「そんなことは言ってません。私達にはそんなことを言う権利はありません。辞める辞めないはあくまでご本人の意思です。」

「でも辞めた方がいいって言うような言い方だから…」

　鬼川はわざとらしく笑顔を作って余裕の表情で言った。

「それは誤解ですよ。そうは言ってません。ただこんな機会だからお話をさせてもらってご自分の適性を見つめるチャンスにしていただくのもいいんじゃないかなって思ってるの。」

「勿論田畑さんがご自身で適性を判断された結果、もっと違う分野で働きたいということになれば引き留めることは出来ないわけだけれど。ご本人の決断ですからね。」

　暗にその方がいいと言っているようなものだ。ある意味この話の持って行き方は凄いと莉乃は思った。同時に自分はこうはなりたくないとも思った。

「あくまでご本人の意思ですが。」

　念押しだかこれから落とす爆弾の前置きだかそこで弓を大きく引くような殺気を感じた。

「そうは言っても我々はメンバー全員の仕事を守る義務もあります。今後は今回のように信用を失うような事態はあってはならないわけですから。」

　飴の後は鞭の番だ。鬼川はわざとらしかった笑顔から一転、夜叉に変貌してカッと田畑を恫喝した。

「今度はないと思ってください。どういうことかわかりますか？」

「…あ、はい。」

「またミスがあればフォローは出来ません。チームに貢献して頂けない人には働いていただくわけには参りません。他のメンバーのためにも。」

　それからとどめを刺すように言い添えた。

「今後はしばらく様子を見させてもらいます。次回契約更新して問題無いのかどうか。無論、またミスなんてことになれば更新出来かねる場合もありますから。」

「はい。」

「きついことを言うようですが今の意識の低さでは更新は無いものと思って生まれ変わってください。」

「はい。」

　田畑の返事はほとんど聞き取れないほどだった。

「さぁ、もう時間がないからクライアントに謝罪に行くわよ！田畑さんは自席に戻って業務についてください。」

　莉乃は田畑にフォローの言葉をかけたかったが鬼川に一喝されてその場を後にした。