ミスマッチ(1)

文字数 797文字

 昔バイトを始めたばかりの頃、莉乃は柾生がちょっと苦手だった。というより関わりがないうちは怖かった。

 柾生は愛想の良い方ではなく、というより平たく言えば無愛想で取っつきにくかった。

 親しくなってからはそれは仮面で本当はシャイな性格を隠すためのカモフラージュだと気づいたが。

 何よりその外見が莉乃の範疇外だった。
 何というか、異質だったから。

 莉乃のそれまでのスタイルには存在しない異分子だったから正直ちょっと怖い以外は何とも思っていなかった。

 柾生はヤンキーっぽかった。あるいは元ヤン。

 どことなくだからうまく説明しにくい。私服の時のファッション。胸元から時折のぞくチェーンだったり。

 莉乃が好きなさりげないおしゃれというのとは真逆に位置するスタイルだった。

 柾生のファッションはちょっと踏み違えればアウトみたいな危うい路線だと思った。

 スゴくかっこいいようでもあり一歩間違うとイケてないの代表みたいな危うさのギリギリを走ってる気がした。

 どこかピリピリして見える感じなんかが試合前のボクサーみたいなイメージだった。

 そのストイックな感じも。

 もっともそういうのが好きな女の子もいたらしい。莉乃は親しくなかったけれど柾生のことをかっこいいと言っている女の子が何人もいるらしかった。

 働き始めて1ヶ月も過ぎようという頃には莉乃も柾生に対するイメージがだいぶ変わってきていた。

 柾生のさりげない優しさが初めは意外で徐々に感動してきた。

「重いから貸して。ほら。」

 と言って莉乃が運ぶべき荷物を代わりに運んでくれたり高いところのものが取りにくくて脚立を取りに行こうとしているとサッと来て黙って取ってすぐにどこかへ消えてしまったり。

 莉乃に対する飾らないストレートな好意も嬉しかった。

 柾生は口下手のようでなかなか言葉にはしなかったけれど莉乃は柾生の自分に対する好意に告白されるずっと前から気づいていた。

















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