疲れる女(3)

文字数 794文字

 麗香の言っているめちゃくちゃな屁理屈の中でそれは一理あるかもしれない。

 麗香は周期的に今日のように不機嫌になることがあった。

 始めのうちこそ真正面に向き合ってきた卓哉も最近は適当にかわすことを学んだ。

 もちろん麗香なりの理由があっての不機嫌なのかもしれないが、卓哉には理解できなかった。

 卓哉は度重なる麗香の感情の起伏の激しさに次第に辟易してきて、最近では理解しようとも思わない。

 卓哉は缶ビールを出してきてプルタブを引いて一口飲んだ。ネクタイを外してスーツの上着を脱いで椅子にかけた。

「飲む?」

 本当は無視したかったが一応麗香にも聞いてみた。麗香はただ首を横に振っただけだった。

「確かに俺は麗香のことわかってないかもしれないけど。」

 そこで言葉を切ってビールを一口飲んだ。卓哉は自分に言い聞かせるように続けた。

「でもわかろうともしてないわけじゃない。わかりたいと思ってるよ。一緒に暮らしてるんだから。」

 麗香は静かに泣き出した。泣いている麗香を見ても卓哉は哀れだとは思わなかった。またか、と思った。

 麗香は時々急に不機嫌になった。卓哉には思い当たる理由もなかった。その度麗香は不機嫌さを隠そうともせず爆発して泣いた。

 卓哉は度重なる麗香のヒステリーに苛々を通り越して嫌悪感を抱くようになってきた。

「なんで私と結婚なんかしたの?幸せにしてくれるんじゃなかったの?」

「幸せにしたいと思ってるし努力もしてるつもりだよ。」

 卓哉は辛抱強く言った。

「幸せじゃないわ。全然。嘘つき。幸せにするって言ったくせに。」

「麗香が幸せになろうとしてないんじゃないか。」

「好きでもないのに何故結婚なんかしたのよ、私と。」

「それはお前だろ?麗香の方こそそもそもの初めから俺とは幸せになる気がなかったんじゃないの?俺とは。お前が幸せになりたかったのは俺とじゃなくてあの男とだろ?今日の原因だってあの男なんだろ?」


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