深酒の意味(3)

文字数 896文字

 外で飲み過ぎて人と喧嘩になって挙げ句の果てに警察に厄介になるなんて。和志のすることじゃない。到底信じられなかった。

 (どうしちゃったの、和志?何があったの?)

 不可解な疑問ばかりが次々と頭に浮かんで飽和状態だった。
 考えるのに疲れて考えたくはなかったがほかのことなど考えられなかった。
 気を紛らわすことも出来ないまま警察に着いた。

 所定の手続きをしたあと、先程電話をしてきた内村という警察官と一緒にいる和志のところへ連れて行かれた。
 狭い事務机の間を縫うようにして歩いていく。
 全くの無関心で香織など存在しないかのように目もくれない人もいればあからさまに上から下まで観察する人もいる。
 その視線は男のそれではなく警察官の習性のように感じられた。

 内村という警察官に丁重に挨拶をして身元保証人のサインをしたあと赤くどんよりとした目の和志を引っ張るようにして逃げるように警察署から出てきた。

 建物から出る時は辺りの人の出入りが引いた時を見計らってサッと通りに出た。
 警察署から出てくるのにも様々な理由があるからそこまで卑屈にコソコソする必要もないのだ。
 が、何故か緋文字のようなレッテルが貼られている気分で落ち着かなかった。

 通りを渡って警察署から十分に無関係と思える位置まで歩いてやっと口をきく余裕が出来た。

「一体どうしちゃったの?和志らしくもない。」

 言いながら和志を見た。

 日頃こんなに関心を持って和志のことを観察したことなど最近では滅多にない。

 和志は勿論やつれて疲れている様子で目ばかりがギロギロとしていた。整った容姿が台無しだ。

「ごめんな。本当に悪かった。」

 その様子は痛々しいほど意気消沈して見えた。それなのに続けて出てきた言葉は声のトーンもガラリと変わり信じられなかった。

「なぁ。デートしない?」

「は?まだお酒残ってるの?何言ってるの?」

「さすがに抜けたよ。警察に一晩いたんだから。それより、ねえ、せっかく二人でこうしているんだからデートしようよ。な、決まり。」

「決まりって。ちょっと。和志。」 

 仏頂面の香織の機嫌なんかお構いなしに和志は楽しそうに香織の手を握って歩き出した。
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