あるべき場所へ(3)

文字数 593文字

「あいつから電話でここで会おうって。俺が今日がいいって言ったんだよ。」

 香織は俯いた。和志が突然家を出たのは日曜日だった。明日で1週間になる。

 和志は香織と勇人を呼び出してどうしようというのだろう?和志に責められても仕方がない。和志には責める資格があるのだから。

「スコッチで。飲みやすいのを。」

「ロックでいいかな?」

 勇人は頷いた。

「私はソーダで。」

 マスターは頷いて作り始めた。

 しばらく2人の間にはマスターが静かに酒を用意する音しか存在しなかった。

 勇人が何を考えているかはわからないが香織と同じような懸念を抱いているのだろうと思われた。

 和志が勇人に連絡を取ったということは、和志はすべて知っているということだろう。

 この1週間、和志が家を出た理由は香織と勇人のことしかないと思ってはいたがやはりそうだったのだ。

 マスターが勇人と香織の前にそれぞれの飲み物を置いた。

 勇人が先に口をつけた。香織も倣って1口飲んだ。

「あいつ、知ってたんだな。俺たちのこと。」

「うん。」

 勇人はまたウイスキーを1口飲んで煙草に火をつけた。

「いつからだろう?」

 香織は答えるかわりにスコッチソーダを1口含んだ。勇人の煙草の煙がゆらゆらと浮かんでいる。

「初めから」

 香織はこの1週間ずっと頭を離れなかったことを言った。

「初めからずっと知っていたのよ。何もかも。私たちが出会ってから起こったこと、すべて。」
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