疲れる女（２）

　卓哉はムッとしたがここで麗香を刺激すればどういうことになるか経験上わかっていた。

　口論になって感情を大爆発させるチャンスを麗香は無意識に待っているのだ。

　だから卓哉は頭の中で鳴り続ける警戒警報に従ってなんとか嵐を回避しようと思った。

「風呂は？沸いてる？」

　卓哉は空腹だったのでキッチンに向かいながら懲りずに麗香に話しかけた。

「飯とか風呂とか。自分でやってよ！私は家政婦じゃないのよ！」

　怒鳴り散らすという程ではないが明らかに苛々した苦々しい口調の吐き捨てるような麗香の返事が返ってきた。

「自分でやるよ。やってるじゃないか。」

　さすがに卓哉も不満げな声で言い返した。

　風呂のスイッチをつけてから冷蔵庫を開けて中の食材を眺めたが急になんだか馬鹿馬鹿しくなって料理を作る気が失せた。

「食べに行こう。」

　うんざりしていた。麗香のヒステリーに付き合う気はさらさらなかったし口論なんて絶対したくなかった。

　このまま家にいれば間違いなく喧嘩になる。外出なんか億劫でしかたないが気分を変えたかった。

「嫌よ。行かない。」

「だって食べてないんだろ？」

「食べたくない。１人で行って。」

「麗香。何なんだよ。俺が何かした？」

「卓哉は関係ない。」

「関係ないって、じゃあ何なんだよ？わからないだろ？言ってくれなきゃ。」

「卓哉なんかに言ったってわからない。あなたなんか何にもわかってない。わかる気もないくせに。私の気持ちなんて卓哉は何にもわかってない！」