今年最後の雪(3)

文字数 663文字

「ねえ?男って寂しいなんて思うことないのかな?」

 奈央が二人の男のどちらにともなく言った。

「そんなことはないだろ?思っても口に出したり態度に表したりってことをしないだけだよ。まあ口にも態度にも出すヤツもいるけどな。」

 門倉が言った。坂本は黙って頷いている。

「私ね、寂しいなんて言葉は子供とか情緒が安定していない若い子のものだと思ってた。」

 奈央はグラスの中から何かの暗号が浮かび上がってくるかのように、何かの意味を読みとろうとするかようにアルコールが作る波紋を見つめていた。

「こんな風にいいおとな?いい年した中年はそんな言葉はとっくに卒業だと思ってた。」

 奈央はグラスのアルコールをごくっと飲んだ。

「人生って思うようにいかないね。ホント不可解。そう思わない?真理沙。」

「そうだね。うん。うまく言えないけど・・・」

 真理沙が言った。

「これくらいの年齢になったらもっと安定してるっていうか落ち着いてるかと思ってた。」

「もういい年した人の親なのにね。ちっともお手本になれてない。迷ってつまづいてばかりだわ。」

 奈央の言葉を聞きながら真理沙はずっと昔、直人がまだ幼かった頃のことを思い出した。

 転勤続きだった。いつも慣れない土地で公園を探し幼稚園を探し学校を探した。

 そのたびにママ友の仲間に入る努力もしてきた。子育てや人間関係に悩んだこともある。

 あの頃は子供の手が離れたら・・・なんてよく考えていた。何か悟りの境地にでも辿り着いていると思っていた。

 実際そうなってみると思っていたほど落ち着いているわけでも心穏やかなわけでもない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み