あるべき場所へ(4)

文字数 465文字

 和志はそういう人間だった。すべてを知ってすべてを1人で抱えていたのだ。

 香織は知っていた。和志がそういう人だってことを。わかっていて和志にその役をさせていたのだ。

 和志も限界だったのだろう。香織はそのことにだって本当は気づいていたはずなのに気づかないふりをしていた。

 泣きたかった。勝手なのは十分わかっているつもりだけれど。

 香織なりに和志のことも愛していたのだ。ただ勇人を愛しているのとは根底から全然違っただけで。

「遅いな。」

 勇人が腕時計に目をやって言った。約束の時間はとうに過ぎていた。

「本当に来るのかしら?」

 和志は時間にきっちりした人間だった。香織との待ち合わせにも遅れてきたことは1度もない。

 いつも支度に時間がかかったりして待たせるのは香織のほうだった。それでも和志は嫌な顔など見せたこともない。

 いつも香織を見つけるとクールな2枚目から一転、包むような優しい微笑で迎えてくれた。

 香織は和志のそんなところが大好きだった。

 それなのに・・・

 ずっといつも和志を傷つけ続けてきたのだ。和志がとうとう壊れてしまうまで。
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