他の誰か(3)

文字数 553文字

 柾生の思いを他所に莉乃には2人の食事を楽しもうなんて気はさらさら無いようだった。

「どう?」

「ん?何?」

「美味いだろ?」

「うん。美味しい。」

 莉乃は1人で抑揚も感動も見せないで黙々と食べて飲んだ。

 脇に紙を挟んだバインダーでもあって試食アンケートのマークシートにチェックしているような無味乾燥な食べ方だった。

「ごちそうさまでした。」

 柾生のペースに合わせる気など考えてもみない様子で莉乃はさっさと食事を済ませて食器を下げに立った。

「置いといて。洗うから。」

 柾生は莉乃の背中に向かって言った。

「いいよ、作ってもらったから私が洗う。お風呂入ったら?」

「うん。食べ終わったらね。」

 案に早く食べてくれと言われている気がして柾生も飲むのは切り上げて片付けることにした。

「これもいいかな?洗おうか?頭痛いんだろ?」

 柾生は自分の分の食器を下げながら莉乃に言った。

「頭はもう良くなったから大丈夫。いいから。そこに置いて。」

 莉乃は顎でシンクの中をさして言った。

「じゃあ悪いけど風呂入るね。」

「うん。」

 去っていく柾生の背中に向かって慌てて追いかけるように莉乃が声をかけた。

「寝てるかも。」

「いいよ。」

 嫌だとは言えない。以前ならじゃれあいながらダメだと言えたかもしれない。

 寝かせないよ、一晩中、とかなんとか言って。

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