【4・おにぎり】死の商人だって自炊したい1
文字数 1,362文字
神崎が暮らしているのは、国境から五十キロほど奥まった、国内でも一番大きい軍事基地――のはずだった。が……。
彼は空港から乗ってきたGSS社の冷房の効いた装甲車に回れ右しそうになったが、
この基地、施設のショボさだけならまだマシだ。
数十年遅れた骨董品クラスのポンコツ兵器や、明らかに使い道のない意味不明な兵器が大量に敷地内に転がり、以前悪い売人にでも捕まったであろう様が、彼には容易に見て取れた。
結局は、そんな時代遅れな装備のおかげでGBI社は大口受注を取り付けるに至るのだが。
午前中のゴタゴタのせいで、神崎が事務所で遅い昼食を取っていると、東京支社の菊池から電話がかかってきた。
日本との時差は四時間、こちらは昼下がり、あちらは夕方だ。
神崎がこの国に着任して半月ほど経つが、大統領府のパーティーでの一件もあり、一躍人気者となった彼の商売はすこぶる好調だった。
予想以上の営業成績に、先日金一封(微々たる金額だったが)が出たばかりだった。おかげで直属の上司である菊池はご満悦で、最近ひんぱんに電話をかけてくる。
今日のように。
しかし、売り上げの内訳のそこそこ大きな部分を占めているのが、日に日にエスカレートする社員たちの盛大なムダ遣いだったということは、上司になかなか言い出せなかった。
自分がこの現場に派遣されたのは、一ドルでも多く顧客から絞り上げるため。
なのに連日、宵越しの銭は持たないとばかりに、カラーコピーした商品カタログ片手に、神崎のデスクを訪れる「ムダ遣い志望」の社員たちが後を絶たず、彼は頭を抱えていた。
と、ぼやく神崎を無視して、社員たちは日頃のストレスを膨大な買い物で発散していた。
民間軍事会社の社員といえば、高くもない給料のくせに刹那的な生活をしている訳だが、アマゾンも届かないような場所で好きなものが買えるとなれば、手当たり次第注文したくなるのが人情というものだ。
おかげでこんな場末の「神崎商会」の売り上げはうなぎ登りだった。