【3・裏目】彼女が壊れたら俺のせいだ 2
文字数 2,436文字
母親との電話を切った後、メールの着信を調べてみた。
ずらりと並んだ未読のメール。
日に日に、呪詛の言葉に変わっていく件名――。
忙しさにかまけて、麗をほったらかしにしていたことを激しく後悔した。
彼はしばらくベッドの上で嗚咽を漏らしていたが、気を取り直して、麗からのメールを一件一件開いていった。
そこには、日に日に心細さが募っていく様が、生々しく綴られていた。
最後のメールを見た後、神崎は携帯を床に落としてしまった。
液晶画面いっぱいに、麗からのSOS、いや呪詛の声が綴られていたのだ。
希望を与えた分だけ、麗の心の闇もまた濃くなり、それが体をも蝕んでしまった。
きっとそうだ、そうにちがいない。彼女が倒れたのは、自分のせいだ。
このまま彼女が死んでしまったら、自分を許せない――――。
何もかもが裏目に出てしまった――。
神崎は、ボロボロだった。
今の自分、神としての力をほとんど失った自分には、何もしてやることが出来ない。やり場のない無力感が体の中で暴れ回り、彼の心をズタズタに引き裂いていく。
どれだけ修羅場をくぐろうと、どれほど長く生きようと、そんなことは関係なかった。恋人が己のために苦しんでいる、その現実は、いとも容易く彼の心を打ち砕いた。
麗からのメールで魂の抜けた神崎は、ふらふらと部屋を出た。
虚ろな目で、廊下の窓から外を見ると、うっすらと夜が明けかかっていた。
上半身はTシャツ一枚で少し肌寒い。
外は、たまに偵察の車が出入りする程度で、航空機の発着もなく静かだった。
途中彼は廊下で二人ほどの社員とすれ違った。
挨拶をされたような気はしたが、どろりとした思考で「えっと……」と思っているうちに、相手は通り過ぎていった。
神崎はそのまま夢遊病患者のように、おぼつかない足取りで司令室にやって来た。
ドアを開けると、一斉に彼に視線が集まり挨拶が飛んで来た。
室内にはレイコとグレッグ、そして数人のオペレーターがいるのみ。
OA機器や人の体温で内部は生暖かかった。
神崎がボソボソと小声で言ったので、グレッグは聞き取れなかった。
グレッグは破顔して、彼の頭をごしゃごしゃとなでてやった。
そして、筋肉だらけの腕で、彼をぎゅっと抱き締めた。
彼が落ち込むと、こうして慰めてやるのが倣いだった。
どうしても淋しさに耐えられなくなる夜が、神崎には時折あったからだ。
グレッグは彼を腕の中から解放すると、肩を掴んで顔を覗き込んだ。
神崎は視線を床に落とし、ぽつぽつと事情を説明しはじめた。
レイコの淹れた珈琲で少し落ち着いた彼は、自分がひどく取り乱していたことを恥じていた。
過去何度か彼の副官を務めたことのあるレイコも、ここまで落ち込んでいる彼を見るのは初めてで、相当なショックだったのだろう、と思った。
無論レイコもグレッグ同様、「神崎を慰める係」を担当した経験がある。
神崎は何かに気が付いた。
焦りのために気付けなかった事だ。
彼はマグカップをレイコに渡し、自分のデスクの上の書類を手に取り、食い入るように見た。
神崎はしばらく思案した。
何かを思いついたのか、急に彼の顔に生気がもどって来た。
グレッグはハンバーガーの包みを取り、「食うか?」と神崎に差し出した。
「いや結構」とハンバーガーのお裾分けを丁重に断ると