【1・一時帰国】キミこそ俺の探していた君1
文字数 1,343文字
……ごめんよ。僕の白猫。
それとも、キミは僕の白猫?
神崎は、急ぎ日本に帰るため、猛烈な速度で仕事を片付けていた。
もちろん愛しの麗ちゃんに一秒でも早く逢うためである。本気の神崎に不可能はない。
彼はある日、NYの本社に電話をかけた。
普段滅多に休暇を取らないその彼が、本社に臨時休暇を要求したのである。オフィスが騒然となった。
病気なのか、余所の会社からのオファーなのか、それとも、密かに現場で誰かにいじめられたのか……。
ああ見えて神崎はいじけやすい性格だから、きっとそれだ! とばかりに、何故か犯人捜しが始まってしまった。
早速犯人の洗い出しが始まったのだが、当然ながらそんな人間など存在しない。
それに気づいた本人が
いじめ説は一瞬で鎮火し、本社の言い出しっぺがオフィスで袋だたきにあっていた、ということは神崎本人に聞かされることはなかった。
毎晩どころか昼間でも、ところ構わず麗にラブコールをしまくるので、神崎の電話料金が天文学的な金額になっていたが、そんなことはどうでもいい。
彼にとって、麗の声を聞けることは何物にも換えがたかったのだ。
幸せそうな顔で電話をする彼を見て、
麗には、一応自分が多国籍企業GBI社の関係者であると簡単に伝えてある。電話で説明するのも面倒だし詳しくは当人に直接教えればいいか、くらいに思っていた。
神崎は念のため帰国するしばらく前から根回しとして、病室に幾度か花を届けた。
そして麗には、母親に、中東に出張中の知り合いが近々見舞いに来るということを、それとなく伝えるよう言ってある。
いきなり病室に見ず知らずの男が来たら警備員につまみ出されてしまうからだ。
未然に防げるトラブルは極力除去しておくのがスマートなやりかたというものだろう、などと気取ってみるが、実際にはママ上に嫌われては彼女とお付き合いも出来ないのだ。
夜間、二人はゲームの方はお休みし、PCを使ってテレビ電話で話すようになった。結果、お互いにますます近しい存在になっていた。
最早神崎にとって、代替品のゲームなど、どうでもよくなっていたのだから、プレイしなくなるのも当然と言えよう。
そして、麗にとっても神崎の存在は、とてつもなく大きな心の支えとなっていた。
さしあたり何事もなく休暇願いは受理され、日本に出発出来たのは、麗と初めて電話で話してからかれこれ二週間ほど経ってからだった。