【1・一時帰国】キミこそ俺の探していた君1

文字数 1,343文字

三章 オフライン

 ……ごめんよ。僕の白猫。

 それとも、キミは僕の白猫?

 神崎は、急ぎ日本に帰るため、猛烈な速度で仕事を片付けていた。

 もちろん愛しの麗ちゃんに一秒でも早く逢うためである。本気の神崎に不可能はない。


 彼はある日、NYの本社に電話をかけた。

すまん、急用が出来たので、大至急休暇を取りたいんだが……
……すいません神崎さん、あの、もう一度、いいですか?
き・ゅ・う・か! 休暇を寄越せっつってんだ! 耳壊れてんのかクソッタレ!!
 気を紛らわすために仕事漬けになっている男が神崎だ。

 普段滅多に休暇を取らないその彼が、本社に臨時休暇を要求したのである。オフィスが騒然となった。

『なんだって!? 大変だ!!』

 病気なのか、余所の会社からのオファーなのか、それとも、密かに現場で誰かにいじめられたのか……。

 ああ見えて神崎はいじけやすい性格だから、きっとそれだ! とばかりに、何故か犯人捜しが始まってしまった。

 早速犯人の洗い出しが始まったのだが、当然ながらそんな人間など存在しない。

 それに気づいた本人が

んなわきゃねぇだろ! クソッタレ共めらが!
 と、電話で怒鳴り散らして事態は収束。


 いじめ説は一瞬で鎮火し、本社の言い出しっぺがオフィスで袋だたきにあっていた、ということは神崎本人に聞かされることはなかった。

あー、もしもし? 麗ちゃん? 俺俺~

 毎晩どころか昼間でも、ところ構わず麗にラブコールをしまくるので、神崎の電話料金が天文学的な金額になっていたが、そんなことはどうでもいい。


 彼にとって、麗の声を聞けることは何物にも換えがたかったのだ。

 幸せそうな顔で電話をする彼を見て、

キモイ……
 と、丁稚ーズの面々がなおさら彼から遠ざかるのはムリもないことだろう。

 麗には、一応自分が多国籍企業GBI社の関係者であると簡単に伝えてある。電話で説明するのも面倒だし詳しくは当人に直接教えればいいか、くらいに思っていた。

(そんなことはどうでもいい)

 神崎は念のため帰国するしばらく前から根回しとして、病室に幾度か花を届けた。

 そして麗には、母親に、中東に出張中の知り合いが近々見舞いに来るということを、それとなく伝えるよう言ってある。

 いきなり病室に見ず知らずの男が来たら警備員につまみ出されてしまうからだ。


 未然に防げるトラブルは極力除去しておくのがスマートなやりかたというものだろう、などと気取ってみるが、実際にはママ上に嫌われては彼女とお付き合いも出来ないのだ。

『有人さんおつかれ~~』
ごめん、遅くなった
『いーよいーよ、それよりごはんちゃんと食べてる?』
食ってる食ってる。食わないとしんじゃうからね! っていうか、そんなやつれたりとかしてないでしょ?

 夜間、二人はゲームの方はお休みし、PCを使ってテレビ電話で話すようになった。結果、お互いにますます近しい存在になっていた。


 最早神崎にとって、代替品のゲームなど、どうでもよくなっていたのだから、プレイしなくなるのも当然と言えよう。

 そして、麗にとっても神崎の存在は、とてつもなく大きな心の支えとなっていた。


 さしあたり何事もなく休暇願いは受理され、日本に出発出来たのは、麗と初めて電話で話してからかれこれ二週間ほど経ってからだった。

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登場人物紹介

神崎有人


永遠の時を生きる人外。民族楽器演奏や作戦立案に長じる。

兄の経営するPMC「GSS社」の平社員。ネトゲが趣味。

プレゼンの腕を買われ、武器商人として中央アジアの某国に派遣される。

自身が『白猫』と呼称する、ある女性を探している。

神崎怜央


有人の兄。同じく、永遠の時を生きる男。生物科学に長じる。

多国籍企業「GBI(グリフォン・バイオロジカル・インダストリー)社」のCEO。バイオ産業を基幹に、軍事産業、民間軍事会社、海運等々手広く商いをしている。NYに本拠を置くが、日系企業である。

有人の務めるPMC「GSS(グリフォン・セキュリティ・サービス)社」はGBIの子会社。

菊地


神崎有人の直属の上司。GSS社日本支部長。

強面の外見からは想像しにくいが、面倒見の良い性格。

好きな食べ物 チョコレートパフェ

アジャッル副司令


神崎有人の赴任先の責任者。年かさのわりには好奇心が強い。

大統領一族とは因縁浅からぬ関係。国内各部族の長老にも顔が利く。

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