【5・キミが君でなくとも】ネトゲ彼女と結婚します2

文字数 2,580文字

 神崎は、PC用の個室に彼女のPCも入れるよう、手続きをした。

 室内でなら、周囲の会話なども入らず、かつ知り合いの目なども気にならないので、二人水入らずでゆっくりと会話を楽しむことが出来る。

 そう思い、部屋に招いたのだ。


 しばらくするとFlawが部屋に現れた。

 彼女は、普段狩り場へ出かける時の装備品ではなく、種族固有の民族衣装を身に纏っていた。

(おお……)

 やはり獣人キャラであるFlawには、こちらの方が似合う、と神崎は思った。

 彼女はしばし部屋を見物するとおもむろに床に腰掛け、Alphonceも側に腰掛けた。

    * * * * *
>Flaw さんが入室されました――
Flaw:おじゃましまーす。うわ~、なんか家具すごいたくさんあるんですね~
Alphonce:いらっしゃーい。ガラクタばっかりだけどね~。大体が季節イベントでもらったやつばっかかな。クリスマスとかイースターとか七夕とか。
Flaw:イベントとかよくわかんなくって、そういうのぜんぜん持ってないです~
Alphonce:え? ログインするときの画面に、お知らせが書いてあるでしょ?
Flaw:あ~・・・読み方がよくわかんないから、いつもスルー・・・
Alphonce:ええ~、もったいない(-_-) じゃ、こんどイベントあったら教えるから。
Flaw:教えるだけ、ですか?
Alphonce:ん? えーっと・・・
Flaw:アルさんは、一緒には、行ってくれないんですか?
Alphonce:うーん・・・
Flaw:だめ?
Alphonce:だめじゃないけど・・・最近俺とばっかりプレイしてるし、イベントのときくらいはフラウさんももっと他のフレンドとかと遊んだ方がいいんじゃないかな、って。
Flaw:じゃ、行く人が他にいなかったらいいのかな?
Alphonce:わざと縁切るのナシね。余計悪い(-_-メ)
Flaw:そんなことしないです~、冗談ですー。
Alphonce:一つ聞いてもいいかな。ちょっと踏み込んだことだけど、無理に答えなくてもいいから、差し支えなければ教えて。
Flaw:いいですよー
Alphonce:もしかして、キミが今いる場所って・・・病院?
    * * * * *



 画面の向こうで、Flawはしばし無言になった。

 ――やはり、触れてはいけなかったのだろうか……。しかし……。

 だが数秒後、彼女は答えた。



    * * * * *

Flaw:そうです。ずっと入院してます。
Alphonce:そうなんだ、教えてくれてありがとう。もしそうなら、もっと負担をかけないようにしないとな、って思ってたんだ。最近、結構ぶっ通しでレベル上げとかしてたから・・・
Flaw:心配してくれてたんですか?
Alphonce:そりゃあね。俺が引っ張り回しているようなもんなんだから、フラウさんのコンディションとかに気を配るのは、PTリーダーとしては当然だと思ってるんだけど。
    * * * * *
(どの口が、PTリーダーとして、なんて言ってやがるんだ。この嘘つきめ……)

 彼女の依存度が日増しに上がっているのは入院していることと無関係ではないだろう。

 自分も彼女に依存している。だが、あくまで保護者のように振る舞ってもいる。

……俺は、卑怯だ。自分を慰めるために彼女を利用しているんだ。
 神崎は己の偽善者ぶりに、嫌気が差してきた。



    * * * * *

Flaw:ありがとうございます
Alphonce:ううん。こちらこそ気遣ってあげられなくて、ゴメンね。
Flaw:私、
Flaw:自由にいろんな所に行ったり、野原を走り回ったりとか出来るのって
Flaw:ここしかないんです
Alphonce:ここ・・・だけ?
    * * * * *
マジかよ……

 正直ショックだった。

 神崎は胸が締め付けられた。そんなに長期間入院しているのか、と。


 ――自由な場所が、こんな陳腐な箱庭しかないなんて……。

 ――連れ出してやりたい…………。


 彼は強い衝動に襲われたが、必死にそれを押さえ込もうと努めた。

カタリかもしれないじゃないか……落ち着け、有人
 言い聞かせても、気持ちは自分の都合のいい方へと、どんどん流れていく。己の意思とは全く関係なく。



    * * * * *

Alphonce:俺も、自由になれるのは、ここしかないかもしれない。
Alphonce:身内や肩書きの問題で、どこに行ってもしがらみがついて回る。だから、誰も俺のことを知らないここでだけ、俺は俺でいられる。だから極力ここに来てる。
(どうしたってんだ……こんなこと語るつもりもないのに)
Flaw:そうなんですか・・・わたしなんかより、ずっと大変そうですね。かわいそうに
Alphonce:へ?俺が?・・・そ、そう?そうなの?
Flaw:だって、体が病気だとか不自由だとかっていうのは、なんていうか「不便」なだけなんで、そのうちそれが日常になって慣れるけども、
Flaw:心が縛られてたりとか、不自由だとか、ホントの自分を見てもらえないのって、慣れっこないし、ずっとくるしいままじゃないですか。わたし絶対耐えられないと思う
    * * * * *



 神崎は愕然とした。


『心が不自由な方が、耐えられない』


 彼女のその言葉に、一瞬頭が真っ白になった。そして、腑に落ちた。

 ――そうか、それが、呪いか。



    * * * * *

Alphonce:・・・俺の方が重症だったなんて・・・
Flaw:あー・・・気を悪くしちゃったらごめんなさい。私がそう思ってるだけだから
Alphonce:いやフラウさんの言うとおりだ。こちらこそ気を遣わせてしまって。
Flaw:そんなことないですよ。いつも気遣ってくれてるのアルさんじゃないですか。いつもダメージくらってばっかりなのに、他の人よりマメに回復してくれたりとか、
Flaw:適度に休憩いれてくれてたりとかするし、助かってます
Alphonce:当たり前じゃないか。キミを一番大事にすることなんて
    * * * * *



『――キミを一番大事にすることなんて』


 これは事故だった。タイピングの早い神崎ゆえの事故、「誤爆」だ。


 脳内変換を行っている最中にポロっと本音がこぼれてしまったのだ。

 気が付いたときには遅く、エンターキーを押して送信してしまった後だった。

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登場人物紹介

神崎有人


永遠の時を生きる人外。民族楽器演奏や作戦立案に長じる。

兄の経営するPMC「GSS社」の平社員。ネトゲが趣味。

プレゼンの腕を買われ、武器商人として中央アジアの某国に派遣される。

自身が『白猫』と呼称する、ある女性を探している。

神崎怜央


有人の兄。同じく、永遠の時を生きる男。生物科学に長じる。

多国籍企業「GBI(グリフォン・バイオロジカル・インダストリー)社」のCEO。バイオ産業を基幹に、軍事産業、民間軍事会社、海運等々手広く商いをしている。NYに本拠を置くが、日系企業である。

有人の務めるPMC「GSS(グリフォン・セキュリティ・サービス)社」はGBIの子会社。

菊地


神崎有人の直属の上司。GSS社日本支部長。

強面の外見からは想像しにくいが、面倒見の良い性格。

好きな食べ物 チョコレートパフェ

アジャッル副司令


神崎有人の赴任先の責任者。年かさのわりには好奇心が強い。

大統領一族とは因縁浅からぬ関係。国内各部族の長老にも顔が利く。

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