【2・自己顕示欲】国家を玩具にする男2

文字数 1,260文字

 対策会議が終わって神崎が急ごしらえのオフィスに戻ると、そこには元副司令が到着して、のんびりとお茶を飲んで待っていた。     
アジャッル副司令、お待たせしてしまったようで……。

わざわざご足労頂きありがとうございます

 部屋に入るなり、神崎は元副司令の前で深々と礼をした。
やはり君はただ者ではないと思っていたよ、私は
 温厚なこの老人は、久々に戻ってきた神崎の顔を見てにっこりと笑った。
どうでしょう。

――それよりも、今回の顛末を教えて頂けないでしょうか

 苦笑いをして濁しつつ、本題に入った。

 副司令には、聞きたいことが山ほどある。

 アジャッルは半笑いの困り顔でゆっくりと語り始めた。
まったく、あのやんちゃ坊主には困ったもんだ……

 子供の頃から、『何でも自分のものにしたがる』困ったちゃんだった。

 それが大統領の甥の本質だという。


 アジャッルは、「小さい頃はよく遊んでやったものだが」と昔話から現在の様子までを、ジョークを交えながら楽しそうに語った。


 事情が事情なのに楽しそう、というのはおかしいかもしれないが、老副司令は神崎青年とのおしゃべりが、何より好きだったのだ。

 その困った甥御チャンがどうしてこんな事をしでかしたのか。

 彼は素行の悪さも手伝い、新政権誕生後は場末の基地に島流しになっていた。

 そしてつい先日、彼の叔父である大統領が側近たちとともに、さらなる国際支援を求めて国連へと旅立った。

 その機に乗じて、彼は行動を起こしたのだ。


 大統領の近親者=甥の立場を利用して大統領に不満を持つ者を集め、前任者を無理矢理追いだしてしまった。

 運悪く神崎が日本に一時帰国している間のことで、暴走する彼を止められる者は、誰もいなかった。

 彼が、神崎が暮らしていた国内最大の基地をジャックし、GSS社の社員コントラクターをおもちゃにし出した理由は、自分が活躍出来そうだったから、というひどく安直なものだった。


 PMCの手柄で周辺の治安が良くなったとなれば、自分や国軍の評価が下がってしまう。

 そこでいくらでも換えのきくPMCの傭兵をどんどん危険な場所に投入し、ボロボロになったところで国軍を投入し、手柄を取り上げよう、という魂胆らしかった。

身内の恥を晒すようなことになったが、君達には本当に済まないと思っているよ
我々もベストを尽くしますよ、アジャッル副司令。

無論あなたや元の司令官の復権も

あの男、未だに大統領のイスを狙っているのだろうか……
え? どういうことですか
この国の独立時、現大統領の派閥と、若い甥を押す急進派の派閥とがあった。結局長老たちが皆大統領側についてしまったので、奴は国防大臣にもしてもらえず、左遷されていた、というわけなのだが……
なるほど……。ちょっと読めてきましたよ。

とにかく、副司令はこの指揮所に詰めて頂きたい。よろしいですか?

向こうにいたとて、雑用しかすることのない男だ。この老いぼれを、好きなように使ってくれたまえ、カンザキ君
 アジャッル副司令は、深い彫りの奥でギラリと瞳を輝かせ、不敵な笑みを浮かべた。
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登場人物紹介

神崎有人


永遠の時を生きる人外。民族楽器演奏や作戦立案に長じる。

兄の経営するPMC「GSS社」の平社員。ネトゲが趣味。

プレゼンの腕を買われ、武器商人として中央アジアの某国に派遣される。

自身が『白猫』と呼称する、ある女性を探している。

神崎怜央


有人の兄。同じく、永遠の時を生きる男。生物科学に長じる。

多国籍企業「GBI(グリフォン・バイオロジカル・インダストリー)社」のCEO。バイオ産業を基幹に、軍事産業、民間軍事会社、海運等々手広く商いをしている。NYに本拠を置くが、日系企業である。

有人の務めるPMC「GSS(グリフォン・セキュリティ・サービス)社」はGBIの子会社。

菊地


神崎有人の直属の上司。GSS社日本支部長。

強面の外見からは想像しにくいが、面倒見の良い性格。

好きな食べ物 チョコレートパフェ

アジャッル副司令


神崎有人の赴任先の責任者。年かさのわりには好奇心が強い。

大統領一族とは因縁浅からぬ関係。国内各部族の長老にも顔が利く。

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