【3・まちぼうけ】ネトゲ恋愛と公共事業2
文字数 3,283文字
自分のPCは現在、海底洞窟への入り口付近で放置中だ。
Alphonce: こんばんは! メッセありがとうございました。ちゃんと届いてますよ!
Flaw: こんばんは(^^)/お声掛けありがとうございます♪今日も釣りですか?
Alphonce: いや・・・それよりも、フラウさんに、お詫びをさせて欲しい。
Flaw: え?なんでですか?別に謝られることはなにもないと思いますけども?
Alphonce: 自分のお節介で、気を悪くされたようなので・・・申し訳ないです。
Flaw: え???あのー・・・ほんとになにもないですよ。もしかして、かんちがいをさせるような事を書いちゃった、とかでしょうか・・・だったら、かえってごめんなさい
Alphonce: 本当に何もない? 俺の方こそ、気分害するようなことしていません?
Flaw: 害してなんていないですよ。どっちかと言うと、私の方が。昨日も帰りに気分悪くさせてしまったみたいで・・・
てっきり自分が、相手の気を悪くしてしまっていたと思っていたのに。
こういう所が、バーチャルでの交流の難しいところだ。
* * * * *
Alphonce: え? そんなことないですよ? ああ、参ったな。こっちが勘違いさせちゃったのか・・・ 多分、俺がしばらく黙ってたことを、そう思っちゃったんですね。
Flaw: そうです。多分私浮かれてたかもだから・・・またやっちゃったのかと思って
Alphonce: やっぱり。あれは、俺が余計な事を言わないように黙ってただけ。機嫌が悪かったわけじゃないから、安心して下さい
Flaw: そうなんですか・・・よかった(T-T)私、調子に乗りやすいから、気分を害されちゃうことが多くって・・・でも、余計なことって何ですか?
Alphonce: ホントに余計な事だからあんまり言いたくないけど・・・俺、基本的におせっかい焼きだから、初心者さんを見ると、つい余計な説教とか始めちゃうんです。
Alphonce: それで結構失敗してるんで、自重してただけ。文字しかないから、色々と難しいよね。気持ちを伝えるのとか。
彼は少しほっとした。
明文化しなければ伝わらない。しかし、明文化することによって角が立つこともまた多い。
ネットの付き合いとは、とかく霞みの中で手探りをするようなものだから、行き違いや事故が頻発する。
それでも求め合わずにはいられないのが、人の性というものか。
無論彼とて、人のひな形たる存在だからこそ、同じ性をも持っているのだが。
* * * * *
Flaw: そうなんですよ!チャットだけだから、言いたいことがちっとも通じないっていうか・・・世間じゃヘッドギアつけて、ボイスチャットするのが普通だけど、ここじゃこのゲームやるのが精一杯だし(-_-)
Alphonce: へ? 俺と同じだ。ここ外国でしょ? だからヘッドギアなんか持って歩けないし、ノートPCしかないから、環境的にこのゲームやるので精一杯です(-_-)
Alphonce: おー、ナカマですね(^_^) どういう所でプレイしてるんですか? やっぱり普通は自分の部屋とかかな?
Flaw: 自分の部屋と言えるような、言えないような・・・寮みたいなとこです。そこで、ノートでやってます
Alphonce: 俺も職場の寮住まいですよ。空調悪いんで、ちょっと暑いです。外は涼しいけど窓がないんで。
Alphonce: そういえば梅雨なんですね。こっちは雨なんかちっとも降らないです。
Alphonce: はいカラカラですよ。肌けっこう乾燥するから唇とかしょっちゅうリップとか塗ってますよ(-_-) あ、雨はなくても地下の水源はあるから水は飲めるけどね。
Flaw: そうなんだ。商社の方って大変なんですね。リップまで塗らないとだなんて
Alphonce: うーん、どうなんだろうか。俺よりも、警備の人の方が大変かも・・・
いやいやいやいや。それよりもっと屈強でマッチョなのだよ。ゴツい武装してるよ。俺はマッチョじゃないけどな。いや、日本じゃこういうの細マッチョって言うんかな?
などと下らないことを独りごちる神崎。
オフタイムでは彼とて一人のゲームオタクだ。
* * * * *
Alphonce: 暑いからね。彼等は外の仕事だから結構大変そうで・・・自分は仕事中はエアコンをガンガン効かせてるから平気です(^0^;)
Alphonce: けっこう暑がりだから、空調効いてないと仕事しづらくて(~_~;)
Flaw: あ、釣り行かれるんですよね?話し込んじゃってごめんなさい
Alphonce: 実家帰るって言うから、もしかして自分のせいだろうかと・・・
Flaw: うーん、そうなような、違うような。見つかっちゃったら、また迷惑かけるかなと思って。だから、地元でおとなしく一人でやってようかなって思って・・・
神崎は、苦虫を噛み潰したような顔をした。
多かれ少なかれ、負担に感じさせてしまっていたことには、間違いなさそうだ。
* * * * *
Alphonce: うーん・・・・・俺は特に迷惑とは思っていないし、役に立てるなら手伝いたい。でも、重く感じるなら、これ以上声はかけない。
Flaw: 私、いつも部屋にこもってるから、人付き合い苦手で・・・あ、べつに引きこもりじゃないですよ☆
Flaw: 体が弱いだけなんです。だから、ともだちとかいないし。それでも・・・なかよくしてもらってもいいですか?
Alphonce: はい、こちらこそよろしくお願いします。友達いなくても全然問題ナシですよ。俺もこんな仕事だから一カ所に長くいることほとんどなくて友達あまりいません。
Alphonce: 東京に帰ったときに顔を見せに行く友達がいるくらいかな。だから安心してください(^_^) ぼっち同士だから、どうぞ気兼ねなくね☆(^_^;)
Flaw: はい(^^)/ありがとう!よろしくお願いします^^
さしあたり、どうにか彼女との諸々の誤解や行き違いはなんとか回避出来たようだったが、それにつけてもネットの世界での意思疎通はもどかしい。
我ながら、よくこんなことを延々と続けていられるものだと、つくづく神崎は呆れてしまう。
なかよくしてもらってもいいですか……か。社交辞令でも、うれしいな……
(でも、体弱いって、気になるな……
――まさか、病院に、いる……?)
『近づき過ぎれば、また失ってしまうかもしれないぞ?』
(確かにそうだけれど。分かっていてもやめられない)
いつもの自問自答。
いくら否定しても肯定しても、何もかもが納得がいかない。
でも一番納得がいかないのは、いま自分の傍らに『彼女』がいない事。
渡し守から伝え聞く、妻の地上への帰還時期はいつも正確だった。
半世紀も遅れれば、今生では逢えないものと彼が判断しても何ら不思議はない。
『――もう、待ちくたびれたよ。諦めても、いいかい? 僕の白猫……』
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