【5・キミが君でなくとも】ネトゲ彼女と結婚します4

文字数 1,112文字

 二十歳だという彼女は、年よりもずっと幼く見えた。

 写真は、病院のテラスで看護師の女性と撮ったもののようだった。


 入院中なせいか、肩より少し長めの髪を、左右で分けて先から二十㎝ほどの所をゴムで結んでいた。


 色気のない髪型だと彼は思った。笑顔は可愛らしかったが、やはり病気のためか痩せていて血色が悪かった。


『彼女』の面影を彼女に見たが、そう思い込みたい気持ちが見せる幻だと、彼は自分に言い聞かせた。これは気のせいだと。


 精神が現実を歪ませることなど、いくらでも見てきたからだ。

『やっば、起床時間だ。検温に来ちゃう!』
え、もうそんな時間なの?

 気づけば午前三時、日本時間で七時だった。

 病室を看護師が回って、入院患者の体温を測っているのだろう。


 日本の病院では習慣のように毎朝検温をしているが、さほど体温の記録が必要とも思えない科でも検温をしている。


 患者にとっても、看護師にとっても負担なだけだろう、と神崎は、小さくため息をついた。

ああ~~、日本帰りたいなぁ
『お休みいつ?』
うーん……こっち来たばっかりだからなぁ。すぐには取れるかなぁ。

でも、俺、こんなに日本に帰りたいって思ったことないよ

『そうなの?』
でも、帰りたいってのとも、ちょっと違うのかな……
『じゃ、なに?』
恥ずかしいから言いたくなーい
『聞きたい~~』
しょうがないなぁ…………。



キミに逢いたい、から

 悪気はないものの、結局神崎は麗の手中にまんまと落ちた形になった。

 でも、彼はそれでもいいと思っていた。

 いいかげん、悩むのにも疲れていたからだ。


『彼女』を待つのは、もうやめよう。

 待たせるお前が悪いんだ、そう思うことにした。

『お前から電話してくるなんて、珍しいな、有人』
 神崎は、その朝事務室から東京支社にいる菊池に電話をかけた。
ちょっとお願いがあるんです。東京で調べて欲しいことが
『私用でか?』
そうです。とある人物について。

経費は、ギャラからでも差し引いておいて下さい

『滅多に頼み事をするような奴じゃないだろう。――相手はどこのVIPなんだ?』
都内にある病院の、入院患者です。

その人物の病状、病歴、入院中のデータをお願いしたい

『病人……? もしかして、それが昔お前の言っていた『白猫』って奴なのか?』
あくまでも、可能性があるだけです。まだ……、確証は、ありませんが……
神崎は菊地に嘘をついた。

調べたら人違いでした、なんて後でいくらでも言えるのだから。

『分かった。そっちは俺に全部任せろ』
……ありがとうございます、菊池さん
『二十四時間以内にレポートを送ろう。そいつは、何処の誰だ?』

 ――いいんだ。


 キミが君でなくとも。

 もう、待つのは諦めたんだ。……だから。ごめん。

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登場人物紹介

神崎有人


永遠の時を生きる人外。民族楽器演奏や作戦立案に長じる。

兄の経営するPMC「GSS社」の平社員。ネトゲが趣味。

プレゼンの腕を買われ、武器商人として中央アジアの某国に派遣される。

自身が『白猫』と呼称する、ある女性を探している。

神崎怜央


有人の兄。同じく、永遠の時を生きる男。生物科学に長じる。

多国籍企業「GBI(グリフォン・バイオロジカル・インダストリー)社」のCEO。バイオ産業を基幹に、軍事産業、民間軍事会社、海運等々手広く商いをしている。NYに本拠を置くが、日系企業である。

有人の務めるPMC「GSS(グリフォン・セキュリティ・サービス)社」はGBIの子会社。

菊地


神崎有人の直属の上司。GSS社日本支部長。

強面の外見からは想像しにくいが、面倒見の良い性格。

好きな食べ物 チョコレートパフェ

アジャッル副司令


神崎有人の赴任先の責任者。年かさのわりには好奇心が強い。

大統領一族とは因縁浅からぬ関係。国内各部族の長老にも顔が利く。

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