【2・猫の人と中の人】ネカマ……じゃないよね?1
文字数 2,490文字
その日の東京は、雨が降っていた。
日本では、もう雨期に入っていた。
壁に掛けられた時計の針は午後十時を回り、室内には湿り気を帯びた冷たい空気が満ちている。
明かりを落とした殺風景な部屋の中で、ベッド脇のサイドテーブルに置いた、読書用ランプの小さな明かりとノートPCから漏れる光だけが、この病室の主の姿をおぼろげに浮かび上がらせている。
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>clock 22:25:39
>Server No.10 : Tricorn
>【North Island】
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自分の分身である、猫獣人キャラが見違えるように強くなったのを目の当たりにして、麗は高位の強化魔法の絶大な威力を噛みしめていた。
PLは世間体を気にする日本人プレイヤーの間でモラル的に問題視されることが多い。
しかし麗が今までこうした恩恵を受けずに来たのは、何もモラルを気にしていたというわけではなく、誰とも絡まずに孤独なプレイを続けてきたからに過ぎなかった。
――ふと、Flawの体が光の結晶に包まれた。強化しなおすにはまだ早い。
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こないだのアップデートで修正が入ってね、レベル差が大きいと、すぐに強化が切れてしまうようになったんだ。
気にしないで、どんどんミミズ叩いてていいですよ。時間もったいないから。
麗は画面の向こうの彼のいうままに、どんどん大ミミズを切り倒していった。
信じられない量の経験値が入り、どんどんレベルが上がっていく。いきなりこんなインフレ状態を目の当たりにして、麗は軽い興奮状態になっていた。
普段はリスクの低い、弱い相手ばかりと戦っていたため中々レベルが上がらず、業を煮やしてこの島に単独でやってきてしまったが、結果は言わずもがなだった。
その後、死体のまま誰かを待っていたところ、呑気に釣りなどしにふらふらとやってきた彼、Alphonceに救助されて現在に至る、という次第だ。
麗は残念そうにつぶやいた。
大分調子も上がってきたところだったので、もう少し続けたかったが、さすがにこれ以上起きていると翌日に支障が出てしまう。
約束の時間になったので、プレイを切り上げることになった。
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麗は微妙にむくれ顔になった。
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Flaw:レベル上げるの疲れたときは、ずっと街でお友達とチャットばっかりしてます。もうチャットだけでもいいやって日もありますよ。
最近、なんだかレベル上がるのに時間かかるようになってきたし、お金もないし。
Alphonce:そっかー。俺もレベル上げ行かないでチャットばっかりしてますよ。上げてないジョブもけっこうあるけど、なんか面倒で。
だから、釣りしてたりとか、合成してたりとか。ホントに真面目にレベル上げにも行かないで、毎日プラプラしてます。
……じゃあ、自分もヘンな子じゃない、普通なんだ。
麗はそう思えて少し嬉しかった。
Alphonce:……正直このゲーム、何かをするには金や時間やレベルが要りすぎるんですよね。金を稼ぐにはレベルが要り、レベルを稼ぐには金が要り、じゃあ一体どうすりゃいいんだって思うと、あとは時間をかけるしかないときてる。
・・・リアルばかりか、こんなところでまで体制批判してもしょうがなかった。・・・すみません。