【1・東シナ海上空】そして戦地へ1
文字数 1,616文字
To Urara From Kanzaki
Subjekt ごめんなさい
このメールをカタールに向かう旅客機の中で打っています。
いま、東シナ海の上を飛んでいます。
黙って中東に戻る僕を、どうか許して欲しい。
向こうでは、死者数十人を出す事故が発生して、
事態の収拾のために、僕が帰らなくてはならないのです。
挨拶をしなかったのは、君に引き留められてしまったら、
僕には、その手を振り払うことが出来ない、と思ったから。
どうか、僕のわがままを許して下さい。
神崎は、病院を出て、一路、航空機でドーハに向かっている最中だ。
空港に向かうヘリの中で、彼は現地の状況を伝えられた。
そこで彼は、兄からの勅命を受けた。
『総指揮を執り、我が社の現地施設を死守せよ』、と。
――一体、自分の不在の間、何があったのか。
ファーストクラスの隅の席に陣取り、持ってきたノートPCで回線に接続する。
詳しい状況を確認するため、機内から本社サーバーにアクセス開始…………
問い合わせのため、現場指揮所にメールを送信する。
現状で分かった情報は以下の通り。
――国境付近を中心に、急激に武装勢力の攻撃が激化しており、社員の被害も甚大である。
資源埋蔵地域の被害が激しく、持ちこたえてはいるが長引けば撤退も考えなければならない。
国軍は、一部再編して国境付近に配備したが、指揮官もまだ未熟で被害が拡大している。現在、我が社は孤立無援状態で――。
To Kanzaki From Urara
Subjekt ひどいよ
どうして「いってらっしゃい」ってひとこと言わせてくれなかったの?
黙って置き去りにするなんて、寂しすぎるよ
あれからずっと、電話もつながらなかったし、すごく寂しかったんだからね
でも……どうしよう
会う前は、有人さんがいないのを我慢出来たけど、今はもう、日本にいないんだって思ったら、気がおかしくなりそうだよ。どうしたらいいんだろう……
たすけて。こういうのって、禁断症状?
To Urara From Kanzaki
Subjekt 僕もです
僕もヘリで帰るあの時、断腸の思いだった。本当に身を切られるような、とてもつらい気持ちでした。
電話の件はごめんなさい。電話の仕様が違うので、しばらく繋がらなかったんだと思います。無論今も空の上なので、使えません。
恐らく、この先、ゲームにもしばらくログイン出来ないと思います。
電話も繋がりにくくなるかもしれません。
メールの返事も、なかなか返せなくなると思います。
でも、出来るだけ早く君の所に戻れるよう努力するから、待っていて下さい。ごめんなさい、今はそれしか言えません。
愛しています。僕を信じて。
現場とのやりとりの合間に、神崎は麗へメールの返事を送った。
多分、恐れていた事態に発展するだろう……。
甘やかしすぎたツケが回ってくる。
多分、彼女をとても苦しめる結果になる。
どうして、よりによってこんな時に事態が急変するんだ?
まだ彼女には、自分が必要だというのに。あんな形で引き離すことになるなんて……。
皆、自分のせいだ……
神崎は、自分を激しく責めた。