第91話

文字数 654文字

まだ島にいるの?
まだ島にいるの?
誰が? 
誰かが

床の男はずぶ濡れだった
フェイギンみたいな小狡そうな顔
小さな窓から見える絶景
グランドピアノを手斧で叩き壊す夢

寝返りくらいさせてくれ
すいませんシャルル・ドゴール空港のトイレにはビデがありますか?

そこまで想像できるなら
被爆した川向こうで草を喰むピンクのホルスタインたちの萎びた乳房も容易に想像できるだろう

女は小切手を受け取ると
金切り声をあげて
ベリーショートの髪を掻きむしった

その時おれは小洒落たオープンカフェでエスプレッソを頼んだ

道往く美しい人たちを眺めながら緊張をといていくと身体がバラバラになっていく気がして仕方なかった

明日は早起きして低木の生い茂る盆地にいかなければならないことを思い出した

そこにはこんもりと土饅頭のように盛り上がった小高い丘があってその頂上の平らな土地にオンネトーみたく神秘に輝く沼がある

その沼のほとりにぽつんと佇む朽ち果てたようなダメージ加工を施された東屋があるのでその東屋の腐れかけたベンチに座っている自分を強く意識しながら平らな土地の外周をゆっくりと一日かけて何周も何周も何周もぐるぐるぐるぐる周るのだ

しばらくするとそこはかとない眩暈を覚えながらじわりじわりと蕩けるようなウォーキングハイのゾーンに入っていく

うまくいけばの話だ
ただ頭がクラクラしただけでぶっ倒れたことは数え切れない

ゾーンに入ると視界が紫に変わる
コツを掴まないと視界が紫に変わる前に必ず昏倒する

実は飛ぶクスリなんて要らないのだ
歩くだけで飛べるのだから
そう人は空を飛べるのだ

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