第18話

文字数 393文字

きみと仲違いしたのは

きみと仲違いしたのは
風の強い日だったことをよく憶えている
いつものように近道して
畦道を帰っていくと
権現さまの小高い丘の上で
カタパルトみたいな
赤錆びた鉄塔が
軋むように笑っていた

あの日を境に
世界は変わってしまった
それでもなお
あの土手にのぼって
きみとまた
移動映画を観れる日を
ぼくは指折り数えながら
待つのだろう

きみを蔑ろにしたわけではない
その証しに
ほんとうの気持ちを
きみに伝えるつもりだった

お内裏様のまねして
緋色のマフラーを首に巻き
糸杉の林を抜けながら
さめざめと泣こう
いったいなにが哀しいのかさえ
わからないけれど

耳もとで風が唸っている
嗚咽がとまらない

夜の余白にはりつくように
ゆなゆな揺らめく
白い花影

きみとぼくの愛の形見に
毟るように手折って
きみに手向ける

底冷えする土の中は
さぞかし冷たいだろうね

交尾を終えた雌カマキリが
雄カマキリを貪り喰らうように
きみがぼくを殺せばよかったのに
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